小説

『おとぎサポート』広都悠里(『一寸法師』)

「もちろん、あります。浦島太郎もめでたしめでたしとはいかなかったし、いったん成功したものの、僕が離れたとたんすべての財産と名誉を失い離婚をした人もいます。人生、なかなかパーフェクトにはいきません」
「そうか。まあ、がんばって」
 オレは背伸びをしつつ、標の肩をぽんぽん叩いて通り過ぎた。
 いや、人は見かけによらないね。いくら背が高くてイケメンでも、これじゃドン引きだ。二度とこいつには近寄らないようにしよう。
「そうじゃないでしょう」
 いきなり肩をつかんで引き戻される。
「あのね、おとぎ話なんてもう現代にはないから。鬼退治するにも鬼はいないし、簡単にはいかないの。っつーかそんな話、信じるわけないじゃん」
 はっきりきっぱり言ってやった。
「堀川君。まさか、きみ、昔は本当に鬼がそこらをうろうろしていたと思っているんじゃないでしょうね?」
 標は半笑いでオレを見た。なんだよ、これ、お前が言いだした話じゃないか。オレはそれにのってやっただけだぞ。
「だって昔話はたいていみんな鬼退治をして、姫を取り返して宝をもらってめでたしめでたしじゃないか」
「それはただの例えです。人とは思えないほど酷い奴を例えて鬼と言っただけですよ」
「だとしても今は誰が鬼かよくわかんないし、オレに鬼退治とか無理、無理」
 オレは両手を左右に振って逃げようとした。
「誰が鬼退治をしろと言いました?」
 標は腕組みをしてえらそうにオレを見下ろした。
「今時、鬼退治など馬鹿馬鹿しい。時代が違います。高校生の堀川君にそんなことができるとも思っていません。それに昔話をなぞっても何も残りませんよ。僕が求めているのは新しい時代にあったおとぎ話、求めているのはニューヒーローなんですから」
「新しいおとぎ話?ニューヒーロー?そんな話は幼稚園でやってくれ。目をきらきらさせてみんなしゅごい!って言ってくれるだろうよ」

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