小説

『おとぎサポート』広都悠里(『一寸法師』)

 その身長は周囲からも浮いてみえるほど高い。
 やけに背の高いイケメンが転校してきたという噂を聞いてはいたし、オレも何度か彼を見かけたことはあった。そのたびに思ったことをまた思う。
 でけー。そして、羨ましい。ほんの五センチでいい、その身長をオレにくれないか。
「失礼ですが、ひょっとしてきみが堀川翼くんですか?」
 低い穏やかな声で尋ねられ、仕方なく「はい、そうです」と答える。
「なるほど」
「なんだよ」
 見下ろされているのは気分のいいものじゃない。
「僕は標道行。大きな夢を抱いているものを助けるおとぎサポートの者です」
「は?」
 オレはじりじりと後ずさる。何を言っているんだこいつ。わけのわからないやつには関わらないに限る。
 そうでなくても、進路希望調査のことで頭がいっぱいなのに、これ以上の厄介事はごめんだ。
「要するにあれです。悪を倒し名誉と姫を手に入れてめでたしめでたしという立身出世、おとぎ話のような人生をサポートするのが僕の役目なんですよ」
 は?真面目な顔で何言ってんのこいつ。
「おとぎ話のような人生って何だよ?」
「大衆の夢と希望、あこがれと目標、それを達成させて語り継がれるような物語を作るのが僕の仕事なんです。ご理解いただけましたか?」
 ご理解いただけるかっ。相手が戸倉ならそう言うところだが、こんなに真面目に丁寧に言われるとそうもいかない。
 待て待て。マジでやばいよ。どう見ても本気で言っているようにしか見えない。あせる。
「標君。何を言ってるの?」
 おそるおそる、聞いてみる。
「あれ、知らないんですか?桃太郎とか金太郎とか一寸法師とか、語り継がれている物語は実際にあった話なんですよ。口伝えされているうちにだいぶ脚色されてはいますが。でも彼らが成功したのは僕たちおとぎサポートの手助けがあったからなんです」
 標の口調は全く変わらない。

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