真夏の昼間なのに、公園には意外にも何人かの人がいた。かっと熱を帯びた太陽の光がまっすぐに降り注いでいる。こんなところに好き好んでいるこの人たちは、よほどの変わり者ではないかと加奈は思った。それとももしかしたらあたしと同じように、マンションの四角い部屋の中鬱々とうずくまるのがつらいのでここにいるのだろうか。加奈はそこにあるベンチに腰掛ける。木製のベンチなのに火傷しそうなほど熱い。
平日のこの時間の自宅近くの公園など、会社勤めの人間にはまったく縁のない世界だ。そこには上司の怒鳴り声もなく、固定電話もなく、嫌味な先輩もおらず、成績表がグラフになって貼り出されることもない。事務所の電気の青白い明るさと、目に痛いほどの強烈な屋外の明るさとは、根本的に違うなと加奈は思った。
ぼんやり眺めているうちに、公園にはいたってのどかで平穏な空気が流れていることがわかってきた。ここには幼い子どもと母親が何組かと、隣のベンチに座る老女がひとりいる。あり余る元気を爆発させるように、子どもたちはそこらじゅうを思い思いにちょこちょこ駆け回っている。ブランコを母親の言いつけどおり「じゅーんばーんに」並び、誰かが誰かのおもちゃをとったといえば母親とともに「ごめんね」と言ってそれを返し、返された側は母親とともに「いいよ」と言って受け取る。俗世間とは違うきわめて平和な社会がそこにはあった。
子どもたちのキャッキャッという甲高い声と蝉しぐれで耳がおかしくなりそうな中、それらをぼんやり眺めながら、加奈は昨夜届いたヒロシのラインの文字を思い返していた。
「ごめん、好きな人ができた。これからは会えない。ホントにごめん。」