「このあたりは土地開発が進んでな。地上げ屋が、どんどん買いに来るわけよ。俺は売ったんだけど、真紀ちゃんはがんとして売らなくてね。そりゃあ、10年ぶりにやっと生まれ故郷に帰って来たんだから嫌だよな。そしたら火事だよ。そして真紀ちゃんと、まだ10歳の望ちゃんが死んじゃった。いや、俺はね、きっと殺されたんだと思うんだ。だってよ、火事のあとで過ぐに工事だよ。警察にも話しにいったが誰も聞いちゃくれねえ。本当に悔しいし、真紀ちゃん、望ちゃんが可哀想でよう。」
佐野は目に涙をいっぱい浮かべている。
しかし、それよりも草薙にとって重要な事は違っていた。
「つまり、私が会っていたのは、真紀さん、望ちゃんの幽霊ってことなのでしょうか。」
何を今更という表情で溜まった涙を拭きつつ佐野が言う。
「そうだな、世間でいうところの幽霊だな。しかし、なんでお前さんには会って、この俺には会ってくれないんだかねえ。」
草薙がつぶやいた。
「そうですか。やはり幽霊だったのですか。」
「お兄さんも、わかっていたのかね」
「不思議だと思っていたんです。真紀さんも望ちゃんも影がないのです。」
「影がない?」
「そうです。帰り際に送ってもらった時に真紀さんの影がなくて。そしてよく見ると外で遊んでいる望ちゃんも影がない。そうやってみると店の中でも二人の影がない。とても不思議に思っていました。」
「へえ、そんなもんかねえ。ドラキュラは鏡に映らないとかいうけど、日本の幽霊ってのは影がないのかい。なるほどねえ。」
「それより、よくわかりませんが、私は真紀さん、望ちゃんに祟られているということなのでしょうか。」
「祟られている?うーん。真紀ちゃんや望ちゃんが人様に悪さするわけないが、まあ、世間的にはそうなるのかなあ。」
「祟られるのは良くないことではないのでしょうか。」
「真紀ちゃん、望ちゃんに会えるなら俺だったら祟られても嬉しいだけどなあ。」
「けど、このまま会っていてもいいものでしょうか。」
「そりゃあ、俺にもわからない。そうだ、お前さん、まだ時間あるかい。この近くの寺に真紀ちゃんと望ちゃんの墓があるから、今から行かないかい。ついでに文ちゃん、文英っていって真紀ちゃんの歳の離れた兄さんなんだが、いま寺の住職をやってるから相談してみようか。」