小説

『家族』NOBUOTTO(『牡丹灯籠』)

 部屋の窓から草薙が以前のように工事現場に消えていくのを佐野は見ていた。
 しかし、次の日から草薙の姿を工事現場にみることはなかった。
「何かあったのかな。」
 草薙に連絡を取りたくても勤務先も自宅の住所も聞いていなかった。 
 何か分かるかもしれないと思い佐野は寺に行った。住職からもらった御札を佐野が預かっていることは隠し、草薙について住職に聞いたが何も知らないと言う。それから、ひょっとしたら草薙について何かわかるものがあるかもしれないと真紀と望の墓に行くように勧められた。
 佐野は二人の墓に行った。
 真紀と望の墓をみて佐野は驚いた。2人の名前の横に草薙の名が刻まれていた。
「最後何があったかわからんが、お兄さんは真紀ちゃんと望ちゃんの世界に行ってしまったんだな。」
 佐野は草薙から預かった御札を見ながらつぶやいた。
 草薙から預かった御札を握ると真紀と望と一緒にいた日が佐野は強く思い出される。
 まるで御札の中に、あの頃の楽しい思い出、自分の家族はなくなったが、新しい家族ができたような楽しい思い出が詰まっているようである。
 草薙から御札を預かった日から佐野は、いつも御札を握っては3人といた日々を思い出していた。
 日がすっかり暮れてきた。何かが聞こえてくる。
 澄んだ笑い声である。この声は、真紀そして望の笑い声である。墓の中から、いや墓の向こうから聞こえてくる。そして草薙の楽しげな声も聞こえてきた
「そうかい、そうかい、みんなここで暮らしているのかい。お兄さんも元気になったようだな。
 そのとき、望の声が聞こえてきた。
「おじいちゃん、おじいちゃんはお店に来ないの。」
「おー、望ちゃんか。そうかいそうかい。私もまた店に行っていいのかい。」
 真紀の声が聞こえた。
「済みません。望。無理やり誘っちゃダメじゃないの。」
「なーに、草薙君にちょっと先越されちゃったけど、俺もまたお店に行こうと思っていたところさ。」
 そう言って佐野は持っていた御札を墓の横においた。
 

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