小説

『家族』NOBUOTTO(『牡丹灯籠』)

 佐野に御札を渡したことでお祓いの効果が消えたのか、佐野の部屋から降りていくとそこには懐かしい「家庭料理 里」があった。
 店に入ると真紀の「いらっしゃい。」の澄んだ声がし、カウンターでは望が勉強をしていた。
「お兄ちゃん、どうしてもわからないの、教えて。」
「いいよ。」
 草薙は、今までのように望の横に座り望の宿題をみてあげた。
 この人達が幽霊というのであろうか。
 幽霊ということでなく、単にここにはここの世界があるだけのような気がしていた。
 あれからひと月近くたっているのであるが、全く時間が過ぎていないようであった。
 「あれ、望ちゃん、いつも下げていたお守りがないけどどうしたの。」
 望がにっこり笑って言った。
「今、大切なお友達に貸してあげているの。」
「草薙さん。本場の明太子が入ったので、今日はこの料理をつくってみたのよ。」
 出された料理は茄子と明太子の和えものであった。店の料理の中でも一番草薙が気に行っている料理である。
 望が言った。
「お兄ちゃん、今日は、ゆっくりしていかない。」
「そうだね。」
 宿題がひと段落ついた頃を見計らって真紀が言った。
「草薙さん、今日はこれで店を閉めるので、あちらの座敷に行きませんか。夏にはあわないけど、鍋をつくったんですよ。」
「わーい、鍋、鍋。じゃ、テーブルの上を拭くね。」望が、座敷へ上がっていく。
「いや、まだ外は寒いですし、鍋とってもいいですね。それから今日はお酒いただけますか。そうだな、熱燗いただけますか。」
「お兄ちゃんがお酒飲むなんて珍しい。それに夏に熱燗なんて、やっぱりお兄ちゃん変わっている。」
「そうだね、変わっているってよく言われるんだ。」
 草薙はそう言って笑った。
 真紀と望と一緒に草薙は鍋を食べた。
「久しぶりにお酒を飲んだせいか、とても眠くなってきました。なんかここのところとても疲れていて。すこし寝てもいいでしょうか。」
 草薙はそう言ってテーブルにうつぶした。
 

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