昨日のことだ。僕は三ヶ月後に控えた進路決定試験について祖母と言い合いになった。僕は生命工学という叔父と同じ延命技術を勉強したいと言った。祖母は反対した。祖母の反対は今に始まったことではない。何しろ自分が痛い思いをする必要がないにも関わらず敢えてその恩恵を蹴り飛ばすような懐古趣味だ。僕は延命技術の有用性を滔々と語り、その間祖母はしらけた目をして聞いていた。
「おまえはまだ人間が生き物の分際を越えられるつもりだと思っているんだね」
祖母は冷ややかな声で言った。この問答は平行線をたどっていたから僕は理路整然と延命のメリットを語った。それでも祖母が反対するので僕はついにキレた。キレたら相手の思うツボだというのは頭ではわかっていたが、どうにも押さえられなかった。
「このわからずやのくそばばあ! 進路試験なんて別に保護者の了承なしにいくらでも受けられるんだよ! だったら相談なんかしねえよ! ふざけんな!」
僕は扉を乱暴に閉めて部屋を出た。
だが、翌日祖母はしれっとした顔をで朝餉の準備をしている。試験については賛成の意などちらとも見せていないが、登校時間になると玄関の外まで見送って
「夕食までにはお帰りよ」
と、手を振った。くそばばあめ。僕は舌打ちをして玄関を出た。まさかそれが最後の別れになるとは夢にも思わずに。
僕は祖母のベッドの上に横になった。泣き疲れていた。寒かった。僕はベッドの上にかかっている祖母のコートをとってくるまった。カルマが懐に入ってきた。祖母のにおいがした。ばあちゃんがもうこの世におらず、二度と会えないなんて信じられなかった。心が壊れそうになる孤独が重い闇となって僕を締めつけた。
どれくらい寝ただろうか。僕は頬を伝う冷たい涙を感じた。
「どうして死んじゃったんだ……」
自分の声にゆっくりと現実に戻される。起きたくない。そのときだった。頭上から聞き慣れただみ声が振ってきた。
「なに寝ぼけたこと言ってんだい! 遅刻するよ」
くそばばあ……朝くらいゆっくり寝かせろ。僕は寝返りをうとうとした。とたんに前頭葉にボカッと微妙に堅い物の衝撃を受けた。
「ぬあっ?」