小説

『親心プログラム』飾里(『祖母のために』宮本百合子)

 夕食はカレーだった。祖母の料理はほとんど破壊的だが、カレーだけは美味としか言いようがない。
「進路はどうしたんだい?」
 祖母2号が聞いた。僕は恐る恐る答えた。
「それ聞くかなあ?」
「生命工学かい」
 祖母はスプーンでカレーをすくった。その皿の隅に豚肉だけが寄せられている。猫にあげるためだ。まったくそういうところもそっくりだ。
「別にばあちゃんが僕の進路に反対したのは今にはじまったことじゃないだろ」
「そうだね、最後まで反対したからねえ」
「しみじみ言っているけど、一昨日のことだからね」
「わかってるよ。あんたのばあちゃんの最期の記録だからね。脳に埋め込まれたデータは夜の睡眠中に自動セーブがかかる。あんたと言い合いした夜があたしの最期のデータだよ」
「最期最期ってやめてよ」 
「だが人間の分際を超える技術なんていらない、なんて言っていた私もこのとおりだ。今じゃそういうもんがあってよかったって心底思うよ」
 祖母2号はそういうと、さらにしみじみと言った。
「あんたの進路に反対するのはもうやめるよ。反対する資格もなくなっちまったからね。これからは全力で応援するよ。どうだい? 気持ち悪くて最高だろ」
「うん、びっくりするくらいね」
 僕はそっけなく言ったが、祖母二号のしみじみに感染して泣きそうになった。でもなんだか妙な違和感もあった。もし本物のばあちゃんが生きていても同じことを言うだろうか。
 

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