小説

『親心プログラム』飾里(『祖母のために』宮本百合子)

 祖母が生きかえった。
 はじめ、僕は祖母が死んでいなかったのだと考えなおした。一昨日の夕方、祖母が家の前で車にはね飛ばされて十メートルも飛んだのは夢だったのだと。祖母の体が地面に叩きつけられて二度バウンドし、落下したのは夢だったのだと。だけど僕ははっきりと覚えていた。固いアスファルトの上で空を見上げた祖母の両眼に僕は写っていなかった。僕は祖母の手を握った。まだ暖かかった。けれどゆっくりと確実に冷えていった。それが死だった。僕は繰り返しイメージしていた祖母の死の前にいた。祖母は左足の膝が悪かった。半年前から左足を引きずるようにして歩いており、何度も義体化を勧めた。義体にすれば、痛みもストレスも減り、健康で長生きできる。被保護者でもある孫のためにもぜひそうするべきだと医師の息子からも言われていたが、祖母は頑なに拒絶した。
「これ以上長生きしてたまるもんか」
 祖母は延命テクノロジーを嫌悪していた。それがたとえ孫のためだとしても、首を縦に振らないあたり、僕も叔父もあきらめていた節がある。理由はおそらく十二年前、僕が三歳の時息子夫婦である僕の両親が交通事故で亡くなったことにある。そのころは救急医療も延命テクノロジーも未発達だった。それから十年。医学の進歩は目覚ましく、全身義体も全臓器移植も可能になった。祖母が医学を拒絶していたのは、自分の息子たちが受けなかった恩恵を親である自分が受け入れることはできないと思っていたからだろう。祖母のすごいところは、体の痛みがあってもそれを当然のように受け入れてけしてテクノロジーに救済を求めなかったことだ。
 おかげで僕は祖母を憎んだ。僕をひとりぼっちにして、のうのうと死にやがって。恨んでやる。受けられた医療をことごとく蹴りやがって。僕はまだ十四歳で成人まであと一年はあるんだぞ。
 

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