『いつか、翼が』
川瀬えいみ
(『鶴の恩返し』)
なぜ、男は、命がけの献身を示してくれた鶴のあとを追わないのか。翔子は『鶴の恩返し』の結末に得心がいかなかった。だから、献身的な恋人と別れて独り身を通していると噂されている男に訊いてみたのである。なぜ、あなた(あの男)は恋人のあとを追わないのかと。彼の答えは切ないものだった。
『蜘蛛の糸 その後』
門外不出
(『蜘蛛の糸』)
芥川龍之介作「蜘蛛の糸」のその後を描く。お釈迦様の行為は本当に正しかったのか。カンダタの行為はまちがっていたのか。カンダタはお釈迦様を糾弾し、見事勝利をつかみます。そこには閻魔大王や弥勒菩薩の思惑も。そして全ては大御神の掌の上でした。
『神さまなんて信じない』
さくらぎこう
(『わらしべ長者』)
家賃を支払うはずだった金をパチンコですってしまった。寂れた神社で昼寝をしていると、自分は神様だと言うホームレスの男が現れる。男は願い事を一つ叶えてやると言うが、僕は神仏を信じない。これ以上関わり合いになるのは面倒だと思い「当たりの宝くじ」と言って神社から逃げ出した。すると思わぬことが次々と起こる。
『夢日記』
海洋単細胞
(『夢十夜』)
夢を見た。私が訪れた場所は、いったい何処であったのだろうか。その夢の続きを知るすべはもう、どこにもない。
『太閤虎と犬』
なるみ
(『大阪城の中のとら』(大阪))
昔々、豊臣秀吉公が大阪城内で、トラを飼っていた。「毎日、犬を出させてトラに食わせよ」というおふれを出した秀吉。従わなければ殺される、と困った町民。ある日、権力を振りかざす役人と闘おうとする男と一匹の犬がいた。大阪民話を元にした、大阪商人と犬の友情を、お笑い仕立てで描いた物語です。
『李の家』
柿ノ木コジロー
(『子取り』(大分県))
ある若い女の独白。物心つく前からの養い親は、庭に大きな李の木を育て、実を採ってそれを売って暮らしをつないでいた。少女はその暮らしに溶け込み、なじんでいたのだが、とある夜、夫婦の会話を漏れ聞いて、逃亡を決意する。
『もめ太郎 1/1000ピース』
山本世衣子
『桃太郎』)
川上拓斗10歳は、両親が日常的に揉めており、自分を揉め事から生まれた「もめ太郎」と名付けた。ある日、パズルをしていた拓斗は、両親の揉め事の最中、家を飛び出した。後、両親の揉め事はなくなったが、数か月後、父親は無くしたパズルの1ピースを置き、「拓斗、強く生きなさい」と家を出た。
『虫と男と、』
宮沢早紀
(『蜘蛛の恩返し』(青森県))
部屋に入ってきた虫は必ず外へ逃がしてやるやさしい僕は、いつもいい人止まりで「男」として見てもらえないことに悩んでいた。マッチングアプリを通して出会った鈴菜とデートをするが、僕は次第に恋愛関係に発展するかが不安になってくる。僕が気持ちを確かめようとすると、鈴菜が実は、と切り出し……
『水底のうた』
裏木戸夕暮
(『大漁』金子みすゞ)
幼馴染だった優、孝、美鈴の人生は高校のクラス編成で分かれた。他県で就職し、帰省で地元に戻った孝は、優と美鈴のその後を聞いて美鈴に会いに行く。美鈴は海辺にある叔父のカフェに身を寄せていた。