小説

『私と、あたしの手袋』ウダ・タマキ(『手ぶくろ』)

 ベッドに身を投げ優斗とのLINEを読み返した。『手袋温かい?』という優斗からのメッセージに返事ができていないままだった。『ありがとう! もちろんよ!』とだけ返した。深く大きなため息が暗い部屋に吸い込まれた。
「また無くしちゃった……」
 友達からの誕生日プレゼントを駅のトイレに起き忘れ、二十歳の記念に母からもらったネックレスさえも無くした過去がある。
 一週間前にも別の手袋を無くした。そのことを優斗に話すと、数日後に「今度は無くすなよ」という言葉を添えラッピングされた手袋をくれた。私は「うん!」と最高の笑顔で返した。そんな幸せに満ちあふれたやりとりに、絶対なくすものかと誓ったのが昨日のことだから自分でも信じられない。誓いは一日も守れなかった。
 気が付くと夜が明けていた。考えすぎて眠れず、目の下にクマでも作って悲壮な顔していれば可愛げがあるのだろうが、鏡に映る顔は寝過ぎで浮腫んでいる。結局、シャワーすら浴びずに爆睡してしまった。
 昨晩、LINEが途切れた優斗に『おはよう』の一文、そして手袋をはめた右手の写真を送る。『大切に使ってね』と優斗からの返事。
 まさか既に片方を無くしたとは言えない。

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