小説

『水底のうた』裏木戸夕暮(『大漁』金子みすゞ)

 ただ高校に入学すると、元々増長気味の優は周囲を見下す発言が増えた。特に孝は標的になる事が多い。
 優は学食へ向かい、美鈴は他の女子と一緒に弁当を持って教室を出た。
 残された孝をクラスメートが気遣う。
「優ってちょっとウザいよな。孝も大変だな」
「別に気にしてないよ」
「マジ?あいつ確かにすげぇけど、結構鼻につくっていうか」
「いやー」
 孝は漬物を齧りながら
「俺が海抜0メートルならあいつはエベレスト。見上げてもあぁ高ぇなぁって思う位かな」
「悟ってんなー」と周囲が笑う。

 優の成績なら公立の進学校に入れただろうが、部活の関係で孝達と同じ私立を選んだ。そのフェンシングも全国レベルで、特待で学費免除。スポーツ誌のグラビアに載ることもある。実家は裕福で両親からも溺愛されている。
 無敵の王子様。
 それが優だった。

 孝達の高校は進路選択により二年でクラス編成が変わり、二年から三年は持ち上がりとなる。
 孝は普通クラスへ、優と美鈴は特進クラスへ入った。二年の終わり頃に優と美鈴が付き合い始めたことを、孝は噂で知った。
 卒業後、優は都会の難関大学へ、美鈴は地元の短大へ進んだ。孝は県外の大学へ進み地元を離れたまま就職した。
 三人の関係は進路と共に分たれたままで、時折人づてに消息を聞く程度だった。
 就職して数年経つと、早くも地元では結婚する同級生も出てくる。
 ある年の盆休み。孝は親しかったゲー友の披露宴に出席する為に帰省した。

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