「地獄の罪人の責め苦は閻魔大王が決めているはず。だが、お前は俺に続いた罪人を問答無用にこの高さから血の池に落とすと言う。お前に地獄の責め苦を増やす権限があるのか。俺が他の罪人に蜘蛛の糸から降りるように言うことで、お前も救われたのではないか」
カンダタは一気呵成に続けました。
「そもそも、俺の足の下でお前が蜘蛛の糸を切れば他の罪人は登って来られず何も問題無かったのに。俺は再び血の池に落ち、お前は極楽で何の罪を背負うことも無いとは、不公正極まりないではないか」
御釈迦様は自分が立っている極楽の雲が、さきほどよりも不安定で踏み応えが頼りなくなってきたように感じられました。
「私はあなたを助けようとしたのですよ」
御釈迦様は懇願するように、カンダタに言いました。
「俺はなぜ地獄の責め苦を受けねばならなかったのだ」
カンダタの質問の意味が、御釈迦様にはわかりませんでした。
「……それはあなたが罪を犯したからです」
カンダタは再び嘆息して言いました。
「では、なぜ俺を極楽へ誘ったのだ」
御釈迦様は正直に答えました。
「あなたが蜘蛛を助けたことを思い出したからです」
「……ふざけるな」
カンダタは怒気を隠そうともせず、御釈迦様に答えました。
「私は、ふざけてなどいません」
御釈迦様はカンダタの怒気が理解できず、怪訝そうに応えました。
「じゃあ聞くが、俺の本来の居場所はどっちだったんだ? 極楽だったのか、それとも地獄だったのか」