小説

『おじょもが通る』森本航(『おじょも伝説』(香川県))

 小学生時代の彼は、背が高いわけでもなく、人前で目立つような性格でもない自分が巨人の名前で呼ばれることに、多少思うところはあったようで、彼があだ名で呼ばれ始めるようになってしばらく経った頃に、「呼ばれるのはええんやけど、おじょもっぽい所、ないやん」と話していた記憶がある。
 私はそれに何と答えたのだっけ。確か、「ほんでも、おじょもって凄そうやしえやん。山も作れるし、オシッコしたら川できるし。多分普通に歩っきょっても、ボーっと立っとるだけでも凄いで。おじょもって呼ばれるってことは、そんぐらい凄いってことなんよ」とかなんとか。言われた方は「オシッコするたびに川できるのは迷惑ちゃうかなぁ」と、苦笑いしていた気がする。
 よくもここまで覚えているものだと、自分でも驚いた。驚きついでに、尾白君にも当時のことを確認してみようか、と思ったが、覚えてないと言われそうなので引っ込める。代わりに、
「今の方がだいぶおじょもっぽいけどな」と言うと、
「それ、昔の友達にさんざん言われよる」と苦笑いが返ってきた。
 背も伸びたし、声も低くなっているけれど、彼の落ち着いた雰囲気や、ゆったりとした話し方は、昔から変わってないなぁ、と思った。

 
「丸亀お城まつり」は、毎年五月の頭に開催される、この地域の一大イベントである。文字通り、丸亀城の城内とその周辺一帯に出店やステージが並び、通りではパレードなどが催されるお祭りだ。
 昔からほぼ毎年来ているから、特にこれを見なければ、みたいなものは、高校生にもなればもうほとんどないのだが、祭りというのはとにかくみんなで集まって楽しもうという口実だと思う。
 そんなわけで、今年も高校になってできた女友達二人と来ることになったわけだけれど、どういうわけか私は、集合時間を勘違いして、一時間以上早く現地についてしまっていた。
 一人で会場を歩いてみたが、歩いただけで終わった。やっぱりこういうのは、誰かとあーだこーだ言いながら回るのが楽しいのだ。加えて、五月上旬の夕方四時とは思えないほど暑い。長袖で来たのは失敗だったかな。いや、日差しが強いからむしろ正解か。
 どこか涼しげなところで時間をつぶそうと思い、近くにある広場に足を向けた。ここにもステージができていて、何やらにぎやかだが、観客はステージの方に密集していて、反対側の隅には人がほとんどいない。ステージと、そこに集まる人混みを遠巻きに見ながら、木陰でほっと息をつく。間違えて早く来過ぎたことを、友人たちにメッセージで伝えておく。

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