小説

『おじょもが通る』森本航(『おじょも伝説』(香川県))

 突然褒められたような気になって謙遜してみると、
「そうやろな」と返ってきた。「結局、身長で存在感出てしもたし」
 冗談めかして言う彼を見ながら、でも、さっき彼が現れたときの安心感は、彼の体格が大きかったからじゃない、と思った。思ったけれど、言わないでおくことにする。代わりに、
「おじょも、復活する?」
「せんわ」即答だ。
 笑っていると、スマホが鳴った。見ると、友人から『今どこにおる?』とメッセージ。
「これから待ち合わせ?」
「そう。ウチだけ早う着きすぎて。尾白君は?」
「俺もこれから。友達がステージ出るらしいけん、観に行くんや」
「え、凄いな」
「てことで、俺行くわ。もう変な人に絡まれんなよ」
「大丈夫。ホンマにありがとね。また学校で」
 手を振って、踵を返して去っていく彼の後ろ姿をしばらく眺めた。人混みの中に入っても、彼の頭がちょこんと飛び出していて、なかなか見失わない。
 そのままぼんやりしていると、
「仁美~」
 突然声を掛けられ、ドキリする。顔を向けると、友人二人。
「お待たせ、っていうか、仁美が早すぎ」
「待っとる間に、変なおっさんに絡まれたわ」
「え」
「大丈夫やったん?」
「うん」
 話をしながら、もう一度振り返る。もう尾白君の姿は見えない。
「ほんなら、行こか」
 そう言って歩き出しながら、そういえば、山と川を作った後、おじょもはどこに行ってしまったんだろうな、と、どうでもいいことを考えた。

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