小説

『真行寺美鶴は恩返せない』柘榴木昴(『鶴の恩返し』)

 昼休みに教室に伺ってみました。
「望月くん、今よろしいですか」
 声をかけるも机に伏して寝たままです。かえってほかのクラスメイトが気をつかって答えてくれます。
「真行寺さんがあんなやつにかかわっちゃいけません」
「真行寺さんご用時なら僕がかわりに聞いときますよ」
「真行寺さんこのあいだの返事、わすれていませんか」
 ぐいぐいと押し返されます。私は流されて廊下を漂流し、結局面会は叶いませんでした。
 帰りにお待ちすることにしました。
「望月君」
 下駄箱で話しかけるもずんずん歩いて行ってしまいます。イヤホンで聞こえないんでしょうか。私は回り込んで声をかけました。
「望月君、あの」
「真行寺。この間は災難だったな」
「いえ。望月君のおかげで助かりました。それで、なにか恩返しをさせてほしくて」
「いいよべつに」
「あのこれ、洗濯しました」
「わざわざありがとう」
「それで、なにかお好みのものとかあれば教えてください。あまり高価なものは無理ですが、誠心誠意お返ししたいと思います」
「いや、いいよ」
「でも、ご迷惑をおかけしました」
「別に迷惑と思ってないし、勝手にやったことだから」
「でも、このままでは申し訳ないですから」
「じゃあ、気をつかわないでくれるかな。それが一番の恩返しだと思って」
「でも、私の気が収まりません」
「まてまて。なんで俺が真行寺の気持ちを汲まなくちゃいけないんだ」
「でも」
 と、言いかけて言葉に詰まりました。確かに、これではご迷惑をおかけした相手にさらに無理強いしてしまっているかもしれません。
「おい望月、お前真行寺さんになにしてんだよ」
「いえ、これは……」
「えー、望月サイアクー。美鶴にまた告ったのー?」
「ちげーよ。真行寺が勝手に困ってるだけで、俺は何にもしてねえよ」
「なんで美鶴が困ってんのよ」
「お前がなんかしなきゃこまらないだろ」
 周りに人が集まってきました。望月君が責められています。私は、どうしていつもこうなんでしょう。良かれと持った行動が裏目に出ます。

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