小説

『不可解の国からの不思議な声』洗い熊Q(『不思議の国のアリス』)

 私には未だに秘密にしている事がある。
 十三歳になったばかりだった頃の話。

 その当時、持っていたおどけた顔でユニークなウサギ時計。お腹をくり抜いて時計になっている目覚まし。
 コミカルで幼げな印象を与える時計を、この歳で気に入って使っていた事も当時は秘密にしていたんだ。

 穏やかな空気。身体がポカポカとしてくる。目を瞑っていても、柔らかい日射しの下にいるんだと実感する。
 爽やかで優しげな風も撫でてきている。
 私は寝そべっているんだ。何処で寝ているかなんて関係なく、その心地よさに浸っていたい気分なっていた。

 そんなふあふあと漂う気持ちの良いうたた寝。そんな私の耳に聞き覚えのある鼻息。
 聞き覚え? ううん、いつもの。
 私に気を遣いながらも掛けてくるクンクンと小さな鼻息。
 その冷たい鼻先が口元に掛かってくると、私は目を開ける。いつもの朝の光景。
 目前にクリッとした大きな目。上向きの黒い鼻先。その鼻の周囲に開き生える白毛が可愛らしくて。
 首を傾げ気味に覗き見ているシーズ犬の愛犬モモちゃんの顔だった。

 寝そべったままで私は顔を少しだけ傾げる。モモちゃんも更に首傾げて返してくれた。
 思わず笑顔になって私は頭を撫でて上げる。そしてゆっくりと身体を起こし上げる。

 手を地面について初めて気付いた。

 柔らかで張りがある草。そう、私は緑色鮮やかで、瑞々しい草原の上に寝そべっていたんだと。
 緩やかな丘の斜面の中腹。周囲を見渡せば穏やかな風の中、何処までも緑が波打つ草原が続いているのだ。

 ここ何処? 不安になって撫でていたモモちゃんの前脚根元を掴んで、私は抱き寄せていた。
 白毛とややラクダ色の毛に覆われるモモちゃん。ふあふあの毛がもっさっりと私の胸の中に。

 胸の中から私を見上げて元気な尻尾を振り続ける。この時は確かモモちゃんは十二歳。もう犬としては高齢の域。でもいつも走り回って年寄りなんて言わせなかった。

「ここ何処なんだろうね? モモちゃん」

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