不安げに呟いた言葉に、モモちゃんは首傾げて更に勢いのある尻尾の振りで答えてくれていた。
空を見上げれば雲一つない、高く透き通る青空が広がっている。聞こえる筈もない上空の気流の音が寂々とした耳鳴りを奏でる静けさ。
モモちゃんがいるから怖くはない。でも不安は募る一方。
おどおどし出していた私。
そんな私を一喝する様な耳障りな鐘の音が背後から急に鳴り出した。
――ジリリリリン! そして甲高い声で誰かが叫ぶ。
「もう時間がないよ! もう余裕がないよ! 急がないと急がないといけないよ!」
抱えたモモちゃん共々、跳び上がる程に私は驚いた。その様に振り返ってみれば戯け顔にハット帽を被り、お腹の全部が針時計の白いウサギが跳ね回っている。
「えっ、なにっ!? どうしたの!?」と私は驚きながらもウサギに訊いていた。
「時間がないって! 急いで急いでって!」
私の言葉など聞こえない風にウサギは跳ね回り、そのまま丘の上へと登って行ってしまう。
「ちょっと待って! 私、訊きたい事があるの!」
跳ねる勢いそのまま、あっと言う間に丘向こうへと行ってしまうウサギ。私はモモちゃんを抱え、慌ててウサギの後を追っかけて行った。
息切れままに登りきる丘。その頂上に私が到達した時、目の前の景色が一変した。
丘向こうには広がる真っ白い絨毯が、地平線まで白く輝いて見えて。
緩やかにきめ細かく一粒一粒が揺らいで煌めく。
それが白い花だと直ぐには分からなかった。
白い釣り鐘の花を下方に向けて一輪は三枚の花弁。それが細い花茎に垂れている。
微風が撫でる度に、ゆらりゆらりと清楚に揺らいで白く輝いていたのだ。
「うわ……」
私は思わず言葉を失って、抱えていたモモちゃんを地面に降ろして見入っていた。
当時の私は知らなかった。今、思い出せばそれが何か分かる――スノードロップ。