小説

『真行寺美鶴は恩返せない』柘榴木昴(『鶴の恩返し』)

「あれ、真行寺」
「望月君! あの、どうしてここに?」
「友達をバス停まで見送ってきたんだよ。真行寺こそおかしいだろ、なんで駐車場にいるのさ」
「私はその……」
「まあいいんだけど。それよりありがとな」
「へっ?」
「応援。バスケの。すっげえ声で叫ぶんだもん、恥ずかしかったけど」
「そんなに声出てましたか」
 全く無我夢中だったのでわかりませんでした。穴があったら入りたいです。
「本当にいつもすみません」
「いいんだ。嬉しかったし」
 嬉しかった。そう言って笑う望月君を見て、私も体の芯から嬉しくなりました。
「多分、初めてです。あんなに声を出して応援したの。すごかったです。こう、ぎゅんぎゅんって」
「いや、他のプレイヤーに比べれば全然だよ」
「でも、その、……よ、よかったです。バスケ好きなんですね。ケガしてもあきらめずに、車イスバスケの練習して」
「ありがと。んー……バスケが好きっていうか、俺はあの人たちが好きなんだ」
 好きなんだ、と言うことばに敏感に反応してしまう。彼から出る好き、という言葉を箱に入れて調べたくなりました。うらやましくて知りたくて、それでいていつまでも心に残ってしまいそうです。
「俺さ、バスケは好きだけど上手くないし、でもそれなりにショックだったんだ。じん帯切ったとき。コートに立てない、なんて一人で打ちひしがれてた」
 よいしょ、と車のトランク部分に腰かけました。
「で、車イスかもって。外側のじん帯は、一本切れてもリハビリでなんとかなるって知らなかっただけなんだけど。でも、リハビリ病棟ですげーかっこいい車イスみてさ。それが暁斗だったんだけど」
「あきと、さんですか。それはさっきの車イスの」
「そ。ウチのチームのキャプテン。あいつは別格でさ。日本代表狙えるんじゃないかってレベル。その日は調整でたまたまいたんだけど、看護師さんから話聞いたんだ。車イスバスケってすげえ面白いスポーツがあって、彼はこの辺じゃ有名人だって。で、実際調べてみたらすごくてさ」
 うんうん、と私も頷く。健常者でも車イスバスケに登録してプレイするくらい人気があるという。
「で、思ったんだよね。俺、足がダメでもダメじゃなくてもダメなんだって」
「ダメ、ですか。どうして」
「んー……生きる勢いっていうかさ、やっぱバスケも車イスバスケも、本気のやつらってすごいんだよ。こんな高校でぼんやりやる程度じゃそもそもダメなんだって。でも、バスケに限らずなんだ。リハビリやってるときにさ、漫然とやるやつと真剣にやるやつと、何が違うんだろうって」

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