『ダンディな釣り人』
春名功武
(新潟県上越市大潟地区の雁子浜に伝わる『人魚塚伝説』)
真っ白なオーダーメイドのスーツを着込み、上等そうな革靴を履き、頭の上には白いウールフェルト生地の中折れ帽子。ダンディな装いの彼が、磯釣りの穴場スポットで釣りをしている。いったい彼は何を釣り上げようとしているのか…
『誰も知らない』
萬造寺竜希
(『メリイクリスマス』)
彼女は確かに存在していた。この大きな世界の、小さな島国の、更に小さい街で。彼女は確かに生きていた。彼女の事を知っているのはこの世界に僕一人。
記憶、思い出、虚像、いや、そんな不確かなものではない。確かに存在した僕が知っている彼女。
『家霊 ~玲子の場合~』
朝海珠瑚
(『家霊』岡本かの子)
玲子は、隣人の生野に夕食を提供している。生野が『徳永キリヤ』として書く小説は、仕事で心を磨耗した玲子のいのちの支えだった。ある夜、またしても彼氏に浮気されたことを生野に話していると、ふと、祖父が昔語っていた先祖の話を思い出す。
『粗忽AIロボ』
永佑輔
(『粗忽長屋』)
熊谷は、熊谷を模したAI搭載ロボットが壊れたので回収に行く。だがAI熊谷は道端でグウタラしているだけだった。AI技術はシンギュラリティを迎えると加速度的に進化してAIがAIを生み出すと思われていたが、AIはより人間に近づいて「人間の業」を獲得したのだ。熊谷はAI熊谷を持て余す。
『愛されたい』
このさえ
(『かぐや姫』)
私が恋心を抱く友人・姫花は、金持ちの男性と結婚することを夢見ている。しかし、両親に捨てられ、老夫婦に養子として育てられてきた姫花は、似た境遇でありながらハッピーエンドを迎える「かぐや姫」に嫉妬をし……