『うどん屋のアレ』
室市雅則
(『榎木の僧正(京都)』)
会社の総務職を定年退職した私は妻の反対を押し切って、念願の「うどん屋」を開店させた。自信のあるうどんを出していたのだが、うどんではなく、サイドメニューの稲荷寿司が人気になってしまった。私が売りたいのはうどんだ。
『パプリカ』
ウダ・タマキ
(『檸檬(京都)』)
サラリーマンとしてストレスを抱えながら働く今、かつて愛した京都の街には刺激を感じることがなくなった。平凡で退屈な日々を過ごす私は、八百屋で一際目をひく黄色いパプリカと出会った。何か非日常体験をしたかった私は、パプリカを手に色鮮やかな原色が相応しくない京都の街に出掛けた。
『カチカチ山』
笠倉薫
(『カチカチ山』)
老夫婦と狸は仲良く暮らしていましたが、飢饉に襲われました。餓死を逃れる為おじいさんは狸を食べる決意をしましたが、不幸な事故でおばあさんが死んでしまいます。うさぎは狸に復讐をしますが、皆報われません。
おじいさんも死に、うさぎはこの状況を変える為焼き畑をして飢饉を乗り越えます。
『風に乗せて』
小山ラム子
(『てでっぽっぽ(岩手県)』)
高校生の頃、自分の甘えのせいで彼氏と別れることになってしまった美晴。大学生になった今でも後悔を続ける美晴は、バイト先で読んだ『てでっぽっぽ』というの民話の主人公に過去の自分を重ねる。
『置いてけ屋』
劇鼠らてこ
(『置いてけ堀(埼玉県)』)
とある寂れた居酒屋に”チョっと変わってる親父さん”がいるって噂になってた。何が”チョっと変わってる”のか気になった俺は、後輩を一人引き連れて、その親父さんのやってる居酒屋へ乗り込む事にしたわけだ。
『西出口』
劇鼠らてこ
(『賢淵(宮城県仙台市)』)
都内某区のとある駅。その西出口で、雨に降られた私の話。立ち往生する私に「傘を貸す」と言ってくれたのは、あどけない顔立ちの男の子。無償で譲られた傘は、果たして良心か、それとも別の意図があったのか。
『わたのはらの姫』
七尾ナオ
(『江談抄などの小野篁伝説(京都)』)
中学生の小野ミツキは、冴えない教師の父と二人暮らし。その父は最近、ミツキに隠れて夜ごとどこかに出かけている。こっそり父の後をつけたミツキは、冥界のような街に迷い込む。そこで見た父の姿は、普段とは全く違ったものだった。
『おひなさま』
香久山ゆみ
(『ひな祭り伝承』)
親戚の集まりに顔を出すのは好きじゃない。結婚はまだか、良い相手はいないのかと、針の筵。身の置き場なくしたたかに酒を飲んだ私は、いつの間にかひな壇のてっぺんに座っており、隣から白い顔のお内裏様が口元に赤い笑みを浮かべて、こちらに熱い視線を向けている……。
『段ボールの獅子頭』
平大典
(『屋台獅子(長野県南信州地域)』)
娘の和葉は、小学二年生で工作にはまっている。春先に見た獅子舞に興味があるらしく、自分で段ボールの獅子頭を作ってしまったのだが……。