『二人の女』
八田
(『夢十夜』)
百年待つと約束した男は次第に何故自分がここにいるのかわからなくなってきた。ある日、通りがかった女が男に何をしているのか尋ね、男は人を待っていると答えたが、男は死んだ女の顔をもう思い出すことができなくなっていた。慌てる男のところに再度女が通りかかって……。
『桃太郎を待ちながら』
増田喜信
(『桃太郎』)
突如として都に現れた鬼は、人間のみならず、山の獣たちも苦しめた。鬼に弟と親友を殺されたトラは、ある時、神の桃の話を耳にする。桃から生まれた子は神の子で、鬼を倒すと。やがて神の子は生まれ、トラは復讐のため、神の子=桃太郎の成長を陰ながら支えるのだが……。
『涙のありか』
小山ラム子
(『ナイチンゲール』)
その日、百花はテンションが高かった。来週から自分の勤め先にテレワークが導入される。会社に行かなくて済むようになるのがうれしかったのだ。しかし、久々に連絡をとった高校時代のクラスメートのある一言によって、自分の本当の願いに気がつく。
『キャンプ場のマッチ売り』
三坂輝
(『マッチ売りの少女』)
キャンプ場のアルバイト、ユカは、客へマッチを売ることを頼まれる。ユカに厄介な仕事を押し付けられるのは、友達がおらず、立ち回りが下手だから。売れそうにないと思っていると、案の定売れない。使い道もなさそうなマッチとアルバイトの時間を持て余したユカはマッチを擦って火をつけた。
『憧憬という名の香り』
裏木戸夕暮
(『蒲団』)
主人公の「私」は一枚のハンカチを拾った。ハンカチに沁み込んだ芳しい香り。その香りを再現すべく香水店へ出向き、調香師と出会う。二つの香水を手にした「私」の人生は好転し、更に愛する女性をも得る。
『夢見るような恋をして』
裏木戸夕暮
(『おめでたき人』)
中学生の頃から十年間、ひとりのアイドルを思い続けた少年。ただひたすらに、見つめるだけの恋。社会人となってその恋は終わりを告げる。
『踏んだペンギンは誰』
白石睦月
(『パンをふんだ娘』)
幸子は美貌を鼻にかけている。貧しさゆえ施設へ預けられるが、引き取られた家庭は裕福で人生は一変。養親の勧めで定期的に母と会うが、みすぼらしいのも手作りの編みぐるみを渡されるのも嫌で堪らない。毛糸のペンギンを踏みつけると、水中に引きずり込まれる。美貌を失って真の美しさに気づく。
『ユキノシタ』
洗い熊Q
(『雪』)
思い立って来た地方。何の思い入れのない場所だが、似通った風景を見て幼いころ住んでいた思い出が蘇るのだった。
『かぐや姫の後胤』
川瀬えいみ
(『竹取物語』)
門外不出の竹取物語の写本の閲覧を求めて、私の勤める図書館にやってきた青年。彼は、その容姿で、出会う人すべてを篭絡し、自らの望みを叶えてしまう。