『黄昏を笑う』
高平九
(『死神』)
87歳の良子は死の床にいた。病室の窓から見えるのは倉庫と鉄塔ばかりで海を見ながら死にたいという良子の願いは叶わなかった。死神のはからいで家族や恋人達の幻影と語りながら良子は臨終のときを迎えた。最後の最後に先に逝った夫の愛を確信して、まるで黄昏が暮れるように良子の人生の炎も消えた。
『カラダの温度が変わるとき』
藤井あやめ
(『白昼夢』)
ランポ社が持ってきた最新家電。それは<緑色のジャージを着たおじさん>だっ た。今まで信じてきた<人間>というものは一体何が基準で<人間>なのでしょうか。
『フェイスケ』
もりまりこ
(『嘘』『久助君の話』新美南吉)
学期の途中から担任になった蛍原先生は、ある日みんなに一枚ずつ紙を配った。
久助が開いた紙には<本多ヘイスケ>って書かれていた。蛍原先生は言った。これから一週間、なってもらう名前がそこに書かれていますと。久助はヘイスケになることになってヘイスケはピュアすぎる花山圭太君になることになった。
『ブラックケープ ・マグダラマリア』
泉鈍
(『黒衣聖母』芥川龍之介)
講義開始前。半分眠りに落ちながら準備を進めていると、山川に声をかけられた。いつもひとりぼっちの山川にだ。聞けば、どうしても一緒に来て確かめて欲しいことがあると言う。どうしておれに? 跳ね除けようかと思ったが、予想外の報酬に釣られ、おれは山川の願いを受けることにした。
『成鬼の儀式』
西木勇貫
(『桃太郎』)
ついに色別の日が来た。白鬼たちにとってそれは、今後の人生を決める重大な瞬間であった。これまで十八年間、鬼吉は同年代の白鬼たちとともに、のびのび育てられてきた。幼少期は近所の鬼たちと、金棒野球などをして遊んだ。思春期に入ると、学校では人間語も習った。
『シー・サイド』
永原はる
(『浦島太郎』)
幼馴染のマナとアリサは、一週間後に高校を卒業して離れ離れになる。そんな中、アリサはマナに問う。「我々の過ごした時間は一体どこに消えてしまうのだろう」。それから八年の月日が流れた。大学生活と社会人生活をそれぞれの地で過ごした二人は、偶然、幼き頃の思い出、その海沿いで再会する。
『桃太郎の旅立ち』
中村久助
(『桃太郎』)
僕はある日、自分が桃から生まれたことを知った。それはつまり、僕にはおじいさんとおばあさんとの血のつながりがないということだ。誰とも確かなつながりを持たない僕の価値は、鬼退治にあると信じて鬼ヶ島に向かうのだが……。
『吾輩たちは猫である』
洗い熊Q
(『吾輩は猫である』)
神奈川県A市。二月の某日、全てが終末へと向かう予兆だと誰もが思った日となったのだ
『息子帰る』
鹿目勘六
(『父帰る』)
東京の会社に勤める康一は、故郷の病気の父が危篤状態に陥るが 業務が忙しく駆けつけられないでいる。父の死を身近に感じて思い知らされるのは、父の存在の大きさであった。会社の休みの日に帰省し看病をするが、ついに父が亡くなってしまう。彼は、喪主として父を送るために故郷へ帰る。