『逆立ち、たったそれだけのことが』
もりまりこ
(『双子の星』)
世の中には自分に似た顔のやつが3人いるというけれど。スギナはそのうちのひとりにはもう会っていた。中学の時の同級生の天野だった。スギナは、双子座流星群がみえるというその日、狂おしいまでに天野のことを思いだしている自分に狼狽えながらも。あの頃の記憶を辿り始めていた。
『奪うこと、失うこと』
吉田猫
(『ジャックと豆の木』)
マネキン工場で働く俺は子供のころから得体のしれない豆の木の触手に導かれるように自堕落に生きてきた。ある日工場の古株やっさんから家に誘われた。やっさんは年の離れた咲菜という若い女と暮らしていたが、俺にしか見えないその触手はやがて絡めとるようにその彼女にも巻き付いていくのだった……。
『道草おばあちゃん』
香久山ゆみ
(『赤ずきん』)
「どうして?」――何かおかしいと感じて質問をするのだけれど、いつでも納得いかぬ答えを返されるまま、言い返せずに従っていた。主体性のない、地味な人生。けれど、ある日小さな女の子が私に尋ねる。「どうしてあなたはずっとそこにいるの?」――ずいぶん長い道草を食っていたようだ。
『負け惜しみはもう言わない』
渡辺鷹志
(『きつねとぶどう』)
男は死ぬ間際に、負け惜しみを言い続けてきたこれまでの人生を後悔した。そして、後悔し続けたまま亡くなった。月日は流れ、ある小学生の女の子、高校生の男の子、そして中年サラリーマン男性がそれぞれの事情から負け惜しみをつぶやくと……
『星空列車と夜』
亀沢かおり
(『銀河鉄道の夜』『よだかの星』)
ある夜、「私」は彼と一緒に、ごとごと走る列車に揺られていた。つないだ手から伝わる体温を感じながら、このままどこまでも二人で行けたらと考えていた時、列車が止まり扉が開く。そうして乗り込んできたそばかすの少年や、整った容姿の青年との交流の中で、「私」は小さな違和感に気付き始める。
『凍える夢』
和織
(『怪夢』)
氷の床に女の死体。罪を隠すことのできない世界。黒い探偵が追ってきて、白い白衣の、自分と同じ顔の男が現れた。男は問う。「どうしてお母さんを殺したの?」
『雨にも負けない』
洗い熊Q
(『雨ニモマケズ』)
暴風の中、会社へと向かう浅子。その中で出逢ったのは摩訶不思議な可愛らしい人物だった。
『祖父、帰る』
斉藤高谷
(『浦島太郎』)
とある海沿いの街。高校生の〈俺〉は自身の夢を追うため、東京へ行こうと家出を計画する。ところが玄関を出た矢先、発泡スチロールの箱を抱えた若い男と出くわす。男は六十年前に行方不明になったという、祖父にあたる人物と同じ顔をしていた。
『狼少女』
あだちまる子
(『嘘をつく子供』)
私は「あったらいいな」と思い描いた作り話をするのが好きな厄介な子どもだった。それを喜んで聞いてくれる転校生のメイのことが私は大好きだった。でも、メイは不登校になった。だから私は、月曜日から金曜日の放課後、メイの家に立ち寄ることにした。