小説

『狼少女』あだちまる子(『嘘をつく子供』)

 三年生のときに転校してきたメイは、四年生の進級を前に学校へ来なくなった。

 背が低くてかわいらしいショートカットのメイは、クラスメイトが友達になりたいと取り合いをするくらい人気だったけど、人見知りで、学校を少し休みがちだった。

 その頃、私は仲良くなったクラスメイトに、近所の家のすりガラスに映る大きなゴリラのぬいぐるみの影を指して「あの家にはゴリラ男が住んでて、ああやってずっと外を眺めてるんだ……」と話してみせたり、低学年の子とよく遊んでくれる六年生のお姉さんのことを「アイツは誘拐組織からの回し者で、ああやって子どもを手なづけてさらうんだ……」と言いふらしたりするのが好きな厄介な子どもだった。

 嘘と言われてしまえばそれまでだけど、「あったらいいな」と思い描いたことを口に出してしまうだけで、私にはゴリラがたまに姿勢を変え、六年生のお姉さんが時々、不気味に笑っているように見えた。みんなは、それをどう思って聞いていたかは分からないけれど、メイは誰よりも「えっ! そうなの?」と驚いてくれるから、私はメイのことが好きだった。

 だから、メイが不登校になって寂しかった。
 だから、放課後、メイの家へ立ち寄ることにした。

 月曜日から金曜日の放課後、私はメイの家に立ち寄った。はじめは付いてきた子たちも次第に呆れて、「変」だと言って来なくなった。

 しまいには、クラスでメイの不登校についてみんなで考える会が開かれたとき、私は先生に「いい人ぶりたいの?」と問われ、クラスメイトに「自分ばっかりズルい」と泣かれた。終始、(そうじゃないんだよなあ……)という気持ちしか湧かなかったけど、私はその日の放課後もメイの家に立ち寄った。

 
 毎日インターフォンを鳴らし帰っていく狂気のクラスメイトに観念したのか、身の毛がよだったのだろう。メイは二、三日に一度だけ、パジャマ姿で渋々と顔を出すようになった。そして、その二、三日に一度の、そのまた二、三回に一回、メイの家の駐車場で遊んで帰る放課後が楽しみだった。

 雨の日も、風の日も、帰り道におもらしをしておしっこ臭かった日も、もしかしたらメイと遊べるかもしれないと、インターフォンを鳴らした。「これは、雨がたまたまここに当たっただけだから、大丈夫!」と、股間を指差して嘘をつくほど。一応、母にも同じ嘘をついてみたが、「股間だけぬれる雨があるか」と怒られた。

 メイは、「学校に来てほしいわけではなさそう」と思ったのか分からないけれど、放課後、必ず遊んでくれるようになり、気が向いた日は学校に来るようになった。

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