『滅びない布の話』
入江巽
(ゴーゴリ『外套』)
なめらかなものばかりすきなひと、強いものばかりすきなひと、そんなひとばかりで満ちた世相だから、なめらかで強いものをひとり、探さないといけない。俺が見つけたなめらかで強いものはスーツで、今日、四週間待って、やっとそれが仕立てあがった。たまらないよ、シビレる。
『先っちょには触れないで』
木村菜っ葉
(『眠れる森の美女』)
あたしは眠っていたい。昨日の君との未遂事件もクソ彼氏との上手く行き過ぎる恋も眠っていれば夢のようだから。夢と現実と思考が行き来する、ベッドの中だけで繰り広げる物語。やがて来る朝という現実が来た時あたしは。
『シンデレラの姉』
吉田舞
(『シンデレラ』)
スクールカースト上位者の杏音は、血のつながらない妹・詩絵良と仲良くなれない。嫌いなわけじゃないが、詩絵良の乙女チックで褒められたがりな性格を「痛い」と感じている。詩絵良は杏音の高校の学校祭に行きたがるが、杏音は来てほしくない。ダサい詩絵良を友達に見られたくないのだ。
『こびとカウント』
木江恭
(『白雪姫』)
わたしの代わりに傷ついて死んでくれるしちにんのこびと。こびとがみんないなくなったら魔女に捕まってしまう。その日床に身を投げた最後のこびとを救ってくれたのは、こびとが見えないはずの勝ち組であるユキコ先輩だった。
『兔は野を、我は海を』
百瀬多佳子
(『うさぎとかめ』)
出版社で働く亀野葉子は、かつてのクラスメイト二兎絢華に思いがけず「再会」する。葉子にとって絢華とは“生き方が上手い人”。それを羨ましく思いながらも、努力を信条に生きる葉子。人生という名のレースでも亀は兎に勝てるのか。20代のリアルの中に昔話「うさぎとかめ」の続きを描いた青春短編。
『川せみになる』
菊武加庫
(『よだかの星』)
結婚して初めて実家を訪れた「私」は、一番会いたくない同級生と帰りのバスで乗り合わせる。二人には思い出したくない共通の過去があるが、彼女はそれをを話題にし始めるのだった。
『花びらを蹴散らして』
柿沼雅美
(『桜の森の満開の下』)
広すぎる公園のひときわ大きな桜の木の下で、OBやほとんどしゃべったことのない後輩の子たちは、すでに声を挙げて手を叩いて笑っていた。「桜が咲くとみんな酒飲んだりお菓子食べて絶景だの春爛漫だのって浮かれて陽気になるけど、それはウソだよね」そう言って隣に座ってきた男は、私の腕を掴んだ。
『吾輩は21世紀の猫である』
中島洋
(『吾輩は猫である』)
吾輩は猫である、主人は半ニートである。主人は教師のくせに週に数時間学校に行って、あとはずっと家でネットゲームやラインのやり取りをしている。明治の漱石の文体を模写しつつ、「ニート」や「引きこもり」の現代を描く。