小説

『Kのはなし』山田蛙聖(『三年寝太郎』)



 幸太郎は中一の初夏、死んだ。
 それから三年後、眠りは覚め、復活した。それは悪魔との契約によるものだった。

1四つ辻

 夜の四つ辻で幸太郎は悪魔に出会った。そいつは少なくとも悪魔だと名乗った。
「こんな夜にどうしたの」
 悪魔は優しく幸太郎に話しかけた。
 幸太郎は頭をすっぽりと覆ったパーカーの中から悪魔を睨みつけた。
「なんでもねぇよ」
「優等生の幸太郎くんには似合わない言葉使いだね。なにかあったの?
 話してみなよ。楽になるよ。それにもしかすると何か力になれることがあるかもしれない」
「力ってなんだよ。なにができるんだ」
「なんでもできるよ。幸太郎くんの望み通りに」
 悪魔は笑いながら言った。
「俺、今日クラスで葬式を出されたんだ。ちくしょう、あんな奴ら。でもどうしたらいいんだ」
 幸太郎は言葉とは裏腹に不安げな面持ちだった。
「へえ、葬式をね。ひどい奴らだね。でもいっそほんとうに死んだことにしたらいいよ」
「そんなの嫌だ。死にたくなんかない。いっそ死ねたらいいけど……。そんなの俺には無理だ。そんな勇気俺にはない」
 悪魔は微かに笑った。
 

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