小説

『Kのはなし』山田蛙聖(『三年寝太郎』)

「よし」
 悪魔の目が一瞬輝いたように見えた。
「では契約成立ですね」
「契約? じゃあ、俺はなにかあんたに見返りを渡さなけらばならないの?」
 幸太郎は慌てて尋ねた。少し気味悪くなっていた。
「いえ、あなたからは何も頂くものはありません。ごあんしんを」
 そう言って悪魔は消えた。

2葬儀

 朝のクラスは嫌な緊張感が漂っている。
 校門で服装の乱れがないか目を光らせている担任たちが理由などではない。もちろん奴らに目を付けられるのも面倒だが、クラスで突然イジメの標的になるほどの脅威はない。
 誰もが朝、自分の机の上に汚らしい雑巾だとか誰かの靴が置かれていないか心配しながら教室に入る。
 そして自分の机の上に何も異変がないことを確認してホッとする。
 次にクラスメイトたちの机を順に見回す。生贄は誰だ?
 窓際の前から三番目の席に白い花束が置かれていた。やっぱり、と皆は思う。そして胸を撫でおろす。
 その席は幸太郎の席だった。
 幸太郎は先月からイジメの標的にされていた。担任たちは気づいているだろうが、知らん顔で自分たちが押し付ける校則ばかりを守れ守れと叫ぶだけ。校則と担任たちに媚を売ってさえいれば後はなにをしても、何も咎められない。
 教室の後ろでヒソヒソ話している三人組がいる。ケイタ、アサト、アカネ。この三人がクラスを仕切っている。何を企んでいるのか、クラスメイトたちはただ見守るだけだ。
 幸太郎が教室に現れた。
 机の上に置かれた花束に気がついたが、まるで見えないもののようにそのまま無言で机に座った。無視をすればいつかこの嵐は過ぎると思っているのだろうか、しかしその態度が逆に三人組の怒りを募らせていた。
 

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