小説

『Kのはなし』山田蛙聖(『三年寝太郎』)

 Kの名を連呼して生徒たちは3組の教室へと向かった。自由への道は示された。

 教室から図工資材置き場まで、生徒たちで溢れていた。
 クラスメイトたちはKを担ぎ上げた。
 生徒たちの間を縫うようにして、Kは運ばれた。透明な棺が宙を進んだ。
 三年前にも見た景色だと幸太郎は思った。あの時からなにも変わっていなかった。変わることを望んでいなかったのではとも思えた。
 それほどクラスメイトたちに持ち上げられて進むのは心地良かった。
「K!K!K!」
 生徒たちの歓声の渦の中ゆっくりと幸太郎は進んでゆく。
 空を飛んでいるようだ。
 Kは資材置き場の窓からクラスメイトたちの手を借りて飛び立った。両手を広げたアカネの待つ地面へと。
 向こうの四つ辻から悪魔が見ていた。

 

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