小説

『Kのはなし』山田蛙聖(『三年寝太郎』)

 午後の授業が始まって、もう半分ほどしか来ていないクラスメートたちは、彼女の様子がおかしいことに気がついた。彼女は俯いたまま爪を噛んで震えていた。指先には血が滲んでいた。
 教室内が声なくざわついた。
 いままで潜んでいた恐怖が再び顔を出して生徒たちを包み込んでいた。誰も彼女に声を掛けられずにいた。
 黒板の前に立つ教師の声は聞こえなかった。
 無音の教室。ただ、彼女が爪を噛む音だけが響いていた。時限爆弾を刻む秒針のように規則的に無慈悲に響いていた。やがて来る爆発時刻。
 限界だった。
 立ち上がったのは、アカネだった。
「もう止めようようよ、こんな茶番」
 椅子を蹴ると、Kの前に立ちはだかった。
「おまえ、ふざけるなよ。思わせぶりな態度ばかりしやがって、やるならやってみろよ。どうせはったりだろ」
 周りの取り巻きの生徒がアカネを羽交い締めにして止めた。Kはそんなアカネを無感動な目つきで見ていた。いや、アカネを見てはいなかったのかもしれない、アカネの背後にある黒板に書かれた板書を見ていただけかもしれない。
「見てろよ」
 アカネは叫ぶと、羽交い締めにしていた生徒たちを跳ね飛ばすと、廊下へ出た。
 アカネが向かったのは廊下の端にある、図工室だった。アサトの落ちた資材置き場のドアをこじ開けた。
「見てろよ。これで終わりだよ」
 

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