小説

『Kのはなし』山田蛙聖(『三年寝太郎』)

 大げさに聞こえるかもしれないが、いつなんどきどんな理由で自分の元に不幸が降りかかるか誰にも予想できなかった。みなそれに怯えていた。シュンスケ自身も例外ではなかった。怯えるだけの理由はあった。幸太郎の一件がその証明だろう。中学一年の春、なんの理由もなく(もちろんなにか理由はあったのかもしれないが、クラスの違うシュンスケには分からない)幸太郎は誰からも無視され、教室から葬られた。それがなぜシュンスケの身にも降りかからないと断言できるだろうか。
 それに、ここ最近その微妙な力関係が崩れ出していた。
 そう、幸太郎が学校に現れたからだった。幸太郎と親しかったからこそ、シュンスケは何か自分にもその影響が波及してくるのではないかと恐れていた。
 学校ではこう噂されていた。「Kの呪い」と。

 シホからのメールが届いた。
「昨日の掲示板見た? 3組のみゆきさん、やっぱり入院したみたい。顔に深い傷ができたみたい。やっぱりこれ。Kの呪い?」
 Kとは幸太郎のKだ。シュンスケは暗澹たる気分になる。少し前までKとは神のKなどと言っていたのにこれだ。
 中学生の世界は三つある。
 ひとつは家での世界。こんなのはどうでもいい。
 もうひとつは学校での、とくに友だち関係の世界。これが一番重要で一番大変だ。
 三つ目は、ネット上の世界。これは自由だ。
 幸太郎は学校の世界では三年前死んだ。だが、ネットの世界では幸太郎は生き続け、そこでも虐められていた。
 

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