一人の少女が道に迷った。そこは深い深い山の奥地。
一人の老婆が少女を見つけた。さらに深い場所にある、小屋へと少女を連れて帰った。
しばらくして老婆は出刃包丁の刃をギコギコと研ぎ始めた。
少女は樽風呂に浸かっている。だから音には気付かない。
少女はようやく風呂から上がった。それでもまだ老婆の正体に気付いていない。
老婆が用意した手拭いで頭をゴシゴシ拭きながら、少女は継ぎ接ぎだらけの廊下を歩いていく。ミシミシと音が鳴った。老婆が佇む台所まで届いた。包丁を研ぐのを止めた老婆は
「湯加減はどうだった?」
「んーまあまあ」
「クク。そうかい」
「ねえ、お外で遊んできてもいい?」
「そりゃあ、いいけど? もうすぐお日様もおネンネしちまうよ」
「ちょっとだけっ。すぐ戻るから!」
「そうかい。んなら、行っておいで。でも直に戻って来るんだよ。美味しいご飯を用意して待ってるからね」
「うん!」
少女は勢いよく駆けていった。
「クク、ククククク」
老婆は笑いが止まらなかった。なんと言っても久々のご馳走だ。口元の皺がいつもより深く、深く刻まれていく。
「めんこい少女の味はこの上なく美味なこと、美味なこと」
小一時間が経過した。少女は一向に帰ってこない。嫌な予感を覚えた老婆は様子を見に表へと出た。
すぐに少女を見つけたが、もともと小粒だった後ろ姿がさらに小さくなっていく。
少女の隣には大柄な男がいた。もう片方には小柄な女がいた。少女を挟むようにして、二人はしっかりと少女の手を握っていた。
「もう迷子になるんじゃないぞ」
「早くキャンプ場に戻りましょう。お夕飯が冷めちゃうわ」
老婆はもう人間ではなかった。だから耳が凄く良い。耳を澄ますとこんな会話が聞こえてきた。