小説

『山姥の晩餐』遊城日華莉(『三枚のお札』)

 まるで体中の皮膚が土石流のように崩れ落ちていくみたいに。
 溶けていく。溶解して、水溜まりの一部と化していく。蝋のように沈んでいく。
 深く、深く意識までもが墜ちていった。
 ミルク色の水溜まりの中へ。
 遂に老婆は溶けて、消えて、なくなってしまった。存在自体が消滅したのだ。代わりに大きな溜まり場がそこにはできていた。
 やがて少女が袋を振り回しながら、老婆がいた場所へと帰ってきた。しかしそこに老婆の姿はなかった。池を思わせる程のミルク色の水溜まりと、浸かった二個入りのショートケーキのケース、紙フォークが二つと、ストローの刺さった牛乳パックが二つ。
 少女は辺りを覗って、いなくなった老婆を探しに公園の出口まで走った。
「みさき!」
 すると突然名前を呼ばれた。少女は後ろを振り返った。
「ママ!」
 逆方向に少女は駆け出した。その先にいた母親にしがみつくと、母親の方も決して少女を離そうとはしなかった。
 無意識に、少女は袋を地面に落としてしまった。ミルクが袋を飛び出して、転がっていく。
「あ」
 気付いた少女がミルクを追いかけようとしたが、少女の背中にはきつく両腕が回されている。温かな体温と温かな親心で少女を優しく包み込んでいた。
 少女もミルクを諦めて、ぎゅっと愛情を握り返した。

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