小説

『ワンルーム・ジャイアント』そるとばたあ(『ダイダラボッチ伝説』(茨城))

 わがワンルームには、今日も平和な時間が流れている。
 朝、目覚めるとすぐにベッドから起き上がり、カーテンを全開にして窓を少し開ける。外の新鮮な空気をとり入れて、軽いストレッチで寝ぼけた体を起こしたら、洗面所にむかい顔を洗う。ガラス張りになった洗面所で、ちょうど朝日が差し込んでくるのが気に入っている。インスタントコーヒーを淹れ、ポップアップトースターで焼いたトーストをかじる。トーストを焼くためだけの機能とレトロなデザインもお気に入りだ。
 大学の講義も予定も何もない日には、そこからぼくは宇宙飛行士になる。
 決して広くはないワンルームの一角には、ドラム式洗濯機が堂々と鎮座している。ほかの家電製品や、その他の日用品はリサイクルショップで安く購入してまで、ドラム式洗濯機は最新のものを購入した。そんなこだわりの洗濯機に洗濯物を放り投げて、洗濯開始。スイッチを入れると、丸椅子を持ってきて洗濯機の前に座り、投入口の窓を覗き込む。給水が完了し、ぐるんぐるんと回る洗濯物をじっと見ていると、そのうち向こう側に遠く青い地球が見えてくる。その瞬間から、部屋は無重力だ。飲んでいたコーヒーも浮かび、ぼく自身の身体も軽くなって、部屋を遊泳する。
「痛っ!」
 お決まりとなった空想をしながら、尻だけでバランスをとっていたぼくは丸椅子から派手に転げ落ちた。
 こうして、わがワンルームの朝は始まる。
 駅から徒歩十五分。駅前のアーケード商店街を抜け、大通り沿いをしばらく歩くと、坂の多い町の坂の密集する場所に行き着く。その坂をいくつも梯子していくと、ぼくが住むアパート『坂の途中荘』がある。二階の隅の部屋がこのワンルームだ。

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