小説

『山姥の晩餐』遊城日華莉(『三枚のお札』)

「ごめんなちゃい。パパ、ママ」
 遠ざかっていく獲物を睨んだ。老婆は声を上げずとも、凄まじい怒りを顔にたたえた。
 その顔はまさに、人を食らう妖怪。
『山姥』
 エサの分際で、クソガキャアアアアアア!

 老婆は半月ぶりにお湯を被って、垢を洗い落とした。手櫛で髪を整え、服装を正し、後日、下界へと降り立った。
 なまじ老婆は鼻が効いた。なぜなら人間ではないからだ。少女の匂いを辿っていって、立派なマンションへと辿り着いた。
「こりゃあタワーマンションと言うたかの」
 だてに年を食っているわけじゃないのだ。老婆は下界の事情にも詳しかった。そして勘も人並み以上に働く。
 あのとき逃した少女は富裕層に違いない。建物を見上げて、そう確信した。と同時に、ちょっと面倒だと思った。アパートだと押し入ってしまえば良いが、コンシェルジュ付きのマンションだとそうもいかない。
 はて、どうしたものか。
 顎を撫でながら考えていると、エントランスの扉が開いた。脇目も振らずに、一人の少女が飛び出してきた。これは見覚えのある顔だ。こりゃまた、なんと幸運なことか。
 後から母親らしき者が扉をこじ開け、右をキョロキョロ、左をキョロキョロ。だが少女は既に横断歩道を渡っていた。老婆はクスクスと息を殺して笑い、少女の後を追いかけた。
 近くの公園で少女を発見した。
 目の前にはコンビニがあった。少女に声を掛ける前、老婆はコンビニに立ち寄った。それから少女の元へと出向いた。
「久しぶりだね、お嬢ちゃん」
 老婆の手には紙製のフォークが二つと、
「おばあさんだあれ? あ。いちごのショートケーキだあ!」
「クク。儂のことを覚えてないのかね。肝の座った娘だこと。まあ良い。ほら、お嬢ちゃんのために買ってきたんだよ。お食べ」

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