『鏡に映るもの』
川瀬えいみ
(『松山鏡』(新潟県松之山))
元同級生の真理子が、自慢の兄の婚約者として、私の前に現れた。地味で目立たないダサ少女だった真理子は、今は誰もが振り向くような美人。鏡ばかり見ている自惚れ屋になっていた。当然、私は兄の結婚に大反対。けれど、真理子が鏡ばかり見ていることには、ある切ない事情があった。
『あずかった夢』
ウダ・タマキ
(『ひらいたひらいた』)
人生に希望を見出せなくなった蓮(れん)は、定職に就かずパチンコに明け暮れる日々を送る。ある日のパチンコからの帰り道、見知らぬ少年の自転車が盗まれる場面に遭遇した。必死に追いかける蓮だったが、車に轢かれてしまい入院する。見舞いにやって来た少年との出会いにより、蓮に変化が訪れるのだった。
『それはズルい』
真銅ひろし
(『蜘蛛の糸』)
見たこともない美少女と出会った。誰もが振り返り、誰もがお近づきになりたいと思う。けれど彼女は尊すぎて男子は簡単には話しかけられない。そんなある日、偶然彼女の『好みのタイプ』を知る。それに男子は色めき立ち、そして動き出す。
『吾輩の猫である』
裏木戸夕暮
(『吾輩は猫である』夏目漱石)
大学受験に失敗し、鬱々とした日々を過ごす拓朗の元に一匹の猫が現れる。猫を通じて飼い主と手紙のやり取りをする話。
『シコメとネグセ』
永佑輔
(『八百屋お七』井原西鶴『破戒』島崎藤村)
37歳の節子は見た目の悪さのせいで恋愛を諦めている。ある日、瀬川と出会う。彼は仕事と母の介護で忙しく恋する暇もない。節子は彼に恋をしたが、もう会う機会がない。瀬川の母が死ねば通夜で会えると思う。そんな折、本当に瀬川の母が死に、節子は後悔する。節子は悲しみを隠す瀬川に触れた。
『花咲兄さん』
横山晴香
(『はなさかじいさん』)
夫婦が雨の中で自宅の庭に骨を埋めている。骨の主の愛犬、シロと彼らが出会ったのも同じ雨の日であった。雨の中捨てられていた子犬であったシロは、散歩の途中に硬貨を探し当てると言う不思議な能力を持っていた。シロから贈られるささやかな幸せに、満ち足りた毎日を送っていた夫婦だったが、ある日散歩中の夫がリードを放してしまい、シロは車道へと走って行ってしまう。
『うらら葛の葉』
香久山ゆみ
(『信太妻』(大阪府和泉市))
亜紀に頼まれ安産の利益がある神社を訪ねる千晴。その地には葛の葉狐の伝説がある。人間に化けて妻となり母となった狐が、正体がばれて夫と子を捨て森に逃げる。亜紀はなぜここへ行くよう仕向けたのだろう。異類婚とその子に思いを馳せつつ、千晴はゆかりの地を巡る。
『望郷』
太田純平
(文部省唱歌『故郷』)
猛暑の夏。仕事で営業先に向かう途中、ふと知らない中学校の前を通り掛かった。すると音楽室から生徒たちの声で唱歌の「故郷」が聞こえてくる。私はこの曲を聞くと、自分が中学生であった頃のことを思い出す。中学三年生の夏、学校の選択授業で音楽を選んだ時のことを――。
『幸せは、みかんに包んで』
沙月あめ
(『蜜柑』)
愛する人との子どもを妊娠したものの拒絶され、子どもを諦めようと病院を訪れる「私」。そこで出会った親子をきっかけに思い起こされる、母親との記憶。それはやがて「私」を「母親」にさせていく――。愛を見失った「私」が再び愛を取り戻す。その過程を描いた物語。