庭に置かれた骨壺に、枯れ木から雨粒が落ちる。
骨を埋めた穴に土を戻す。白の破片はすぐに見えなくなる。
妻は傍らに佇んで、私に傘を傾げてくれていた。雨の音に紛れてすすり泣きが聞こえていたので、私は何も言わなかった。
スコップを使えばよかったと思う。雨で湿った土が爪の間に入ってしまったから、きっと取れにくいことだろう。やはり私も動転している。
けれど、手で土を掘って足るほどに、骨の量が少なかったから。
そう考えた瞬間溢れてきた涙を腕で拭う。こんなに小さい身体で生きていたのかと思うと、切なさに胸が締め付けられた。
もう二度と会うことはできない。あのほころぶ笑顔も、飛び出し走っていく元気な姿も、もう過去のものになってしまった。
そういえば、まだあの子が子犬だった頃に出会ったのも、こういう雨の日だった。
私は現在の職場で妻と出会った。郊外の実家を譲り受ける形で、今の住居に越してきて、それから二人で暮らしていた。
ある夜、不安げな妻に起こされた。外から子犬の鳴き声が聞こえると言うのだ。
耳を澄ましてみると、粗い雨の音に甲高い声が時々混じっている。
「ねえ、もしかして捨て犬なんじゃない」
「まさか」
私は笑ってまた寝付こうとしたが、その後も声は止まず、一旦起きてしまったからには声が耳について眠れなかったので、妻に引き立てられ、仕方なく外に出ることにした。
玄関を開けると、声は案外近くから聞こえていることが分かった。傘をさして、音の方へ歩いていくと、妻が「あそこだ」と言って指をさす。
そこには雨に濡れてよれよれとした段ボールの箱があって、水没した中身に、子犬が震えて吠えているのだった。
妻は慌てて、パジャマが濡れるのも厭わず子犬を抱き上げると、可哀想、乾かしてあげなきゃ、と言って家へ走って行った。
私は段ボール箱の側面を見た。おあつらえ向きにも、染みたマーカーで「拾って下さい」と書いてあった。
家に戻ると、妻は子犬をタオルで拭いて、ドライヤーで乾かしていた。子犬は吠える気力はあるようだったが、あまり暴れていないので、やはり弱っているのかもしれない。
「この犬どうするの」
私は彼女に訊いた。
「どうするもこうするも……とりあえず今日はうちに泊めてあげなきゃ。ご飯もあげて」
「その後は? 狂犬病とか、届け出とかあるけど」
妻は「飼ってみてもいいんじゃない」と笑みをたたえて言いながら、赤身肉をミンチにしていた。私はタオルにくるまれている子犬を見た。この子はどうやら妻に気に入られたらしかった。
子犬はこちらを見て可愛い声で一つ吠えた。
その後、子犬は体調が悪くなることもなく元気になった。届け出や予防接種に健康診断を済ませて、子犬は家で飼われることになった。
子犬は真っ白の秋田犬だったので、妻と相談して、子犬をシロと名付けた。