小説

『ひらいてひらく』小山ラム子(『鶴の恩返し』)

 水面に光が反射している。
 きれいだ、と新太は思う。
「お! あった!」
 案外早くに見つかった鍵を右手に握り、新太は美羽へと近づいた。
 しかし、汚れ一つない白いワンピースを見て、あわてて差し出した右手を引っ込める。
 中心から噴き出す水と周囲から中心に向かって噴き出す水とで、噴水の周りのくぼみは新太が突っ込んだ足首が埋まるほどの水が溜まっていた。だから、新太の手足はびちゃびちゃに濡れている。
「わり、服濡れちゃうよな」
 美羽はそのおおきな瞳をさらに見開いた。あれ、こんな顔もするんだな、と新太が思ったその瞬間。
 強く、手を握られた。
「濡れてるのは、新太くんじゃない」
 美羽の手は熱かった。いや、熱いのは新太の身体の方かもしれない。
「ありがとう」
 周囲が、蜃気楼のようにぼんやりと新太の目にうつる。
 美羽の姿だけが、はっきりと見えていた。

「これ、どうやって洗えばいい?」
 顔をあげた姉はぱちくりと目を瞬かせながら、新太が持っている物を見つめていた。
「ん? なにこれ。女子のハンカチ?」
「あー、うん。貸してもらった」
「へー。きれいだね。手触りもいいし」
 四つ上で高校二年生の姉は、自分よりもずっと大人で物知りだ。なにより、あれこれと聞いてこないところが好きだ。
「やさしく手洗いすればいいんじゃないかな。洗面器に洗剤いれて泡立てて、そこで洗いな。それで洗濯機で一分くらい脱水かな」
「分かった。ありがと、姉ちゃん」
「はいよ」
 姉はにかっと笑ってから、自分が読んでいた本へと視線を戻す。
 自分と姉は、似ていると言われることが多い。
 人懐こくて明るくて活発。そんな性格のことを言われているのだろう。
 だけど、自分と姉は似ても似つかない。新太はそう思う。

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