小説

『ひらいてひらく』小山ラム子(『鶴の恩返し』)

 廊下から教室をのぞく。すぐ隣のクラスなのに、全然別の世界のようだ。
 美羽は窓側の席の一番後ろで、髪を二つしばりにした女子とおしゃべりをしていた。よりによって出入口から一番遠い位置である。
 教室の中では男女がそれぞれにグループをつくっていた。新太のクラスだってそうだ。高学年になってから、男子と女子は次第に別行動をするようになっていった。
 こんな中で、男子が女子に「ハンカチ、ありがと」なんて言って渡したら何を言われるか分からない。
 回れ右をして自分の教室へと戻ろうと思ったそのときだった。
「うざいんだけど!」
 鋭い声に驚いて、もう一度中の様子をうかがう。美羽と女子の前には男子三人が立っていた。どうやら先ほどの言葉を発したのは二つしばりの女子のようだった。
 そして、その男子三人には見覚えがあった。隣のクラスだから、ではない。昨日、公園に入ったときにすれちがったのだ。
 リーダー格の男子は、二つしばりの女子になんだかんだと言っているようにみえるが、その目はちらちらと美羽をとらえていた。
 新太は教室へと大股で入っていった。昨日の熱とはちがった熱が身体の中でめらめらと燃え上がっていた。
「これ、昨日ありがとな」
 わざと声を張り上げて、机の上にハンカチを置く。そして、新太は振り返って男子達の方を見た。
「昨日、公園の噴水に家の鍵落としちゃったみたいでさ。俺がとってきたら、このハンカチ貸してくれて」
 男子の顔にさっと赤みが差すが、それよりも女子の方が早かった。
「はあ!? 最悪! あんたがやったんでしょ! なんでそんな意地悪すんの!?」
 なんで、なんて分かりきっている。
 この男子は美羽のことが好きなのだろう。

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