小説

『ひらいてひらく』小山ラム子(『鶴の恩返し』)

 今さっきあった裏庭での出来事を美羽へと話す。それを聞いて、美羽はこう言った。
『新太くん。本当にありがとう』
 パッ、と。
 向こう側から、美羽が姿を見せた。
「ううん。それよりさ、昼間のことごめん。あんなやり方じゃ、多分クラスの奴らにからかわれるよな」
『あ、えっと、実はあの後結構からかわれたんだけど……』
「え! ごめん!」
『ううん。すっごい恥ずかしかったけど……なんだろ。明日からはちょっと楽しみかも』
「え?」
『じゃあ、また明日!』
 一方的に電話を切られる。心臓がさっきとはちがう音を鳴らしていた。
 ツーツーという音を聞きながら、あの鶴のことを思う。
 罠を仕掛けたのは人間だ。だけど、助けたのも人間だ。
「決して中をのぞいてはいけない」というあの約束。あれは、まだ人間のことを信じ切れていなかった鶴が、それでも助けてくれた人に恩返しをしたくて設けたルールだったのかもしれない。
 もし、中をのぞくことなく日々を過ごしていたら。
 あの鶴はいずれ自分から部屋の中に招き入れたのだろうか。自分の正体を見せて。それでもずっと一緒にいたい、と言ったのだろうか。
 階段を降りて、子機を元あった場所へと戻す。姉は、いつも通り何も聞かない。
「姉ちゃん」
 姉がこちらを見る。
 昨日と今日のことを話したかった。
 ちょっと恥ずかしいけれど、今までの感謝と一緒に。
 自分から、全部話したい。

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