昔むかしおじいさんとおばあさんが仲良く暮らしていました。
おじいさんが山で取ってきたもので道具を作り、それを売って生活していました。
生活は貧しかったけれど、家の裏の畑で野菜を育ててふたりは穏やかに暮らしていました。
そんなおじいさんとおばあさんのところによくタヌキが遊びに来ていました。
働き者な人の良いタヌキで歳をとったおじいさんとおばあさんの代わりに畑の雑草をとってやったりしていました。
その代わりにおばあさんは多く採れた野菜をタヌキに分けてあげたりしていました。
「いつもありがとうね。」
「いえいえ、なんの。おばあさんにはいつもお世話になっていますから。」
おばあさんはタヌキのことを自分の子どものようにかわいがっていましたが、続く大飢饉で段々取れなくなってきていた食べ物に困っていました。
頑張って畑仕事に精を出しても、日照りでダメになってしまい野菜が育たないのです。
タヌキが山から木の実を持ってきておじいさんとおばあさんに分けてあげても、ふたりを支えるには食べ物が少なすぎました。
おじいさんとおばあさんの身体は日に日に弱っていきました。
こんな状態で、日照りも続いて、畑仕事をやる体力も残っていません。
そんな中おじいさんはある決意をします。
おじいさんは
「恨まれても、ばあさんのため」
と、タヌキを縄で縛ってしまいました。
「おじいさん。僕は何かしましたか。こんなことやめてください。」
「こんなことはしたくない。したくはないがね、ばあさんのためじゃ。
わしはまだ平気じゃが、ばあさんの身体が
弱ってきている。このままではみんな死んでしまう。」
おじいさんは泣きながら言いました。
「ばあさん、わしは町に行ってくるがね、
タヌキ汁にして食うんだよ。」
「そんなことできません。
そんなことしたら私は鬼ですよ。
この子は今までどんなことをしてくれましたか。罰が当たりますよ。」
「罰が当たる前にこのままじゃ命が尽きてしまう。いいか、自分の為に食うんだぞ。」
おじいさんはそのまま出かけました。
後にはおばあさんとタヌキだけが残されました。
「おばあさん、お願いですからこんなことやめてください。」
「私だってこんなことはしたくない。
だからここからお逃げ。
遠い遠いところまで行ってもうここへは
帰ってきてはいけませんよ。」