小説

『カチカチ山』笠倉薫(『カチカチ山』)

 ウサギは言うと、タヌキをこらしめるための作戦をずっと考えました。
 いかにタヌキを苦しめるか、そういう考えにこころが支配されていきました。

 そして一週間後。
「タヌキさん、タヌキさん。私と一緒に芝刈りにでも行きませんか。」
 ウサギは優しい声でタヌキに呼びかけました。タヌキはうさぎの申し出を素直に受け取りました。
「いいよ、行こうか。山を見たかったところなんだ。」
 ウサギとタヌキは山で芝刈りに精を出しました。
 ウサギはタヌキの一生懸命働くところを見て、悪いタヌキではないのではないかと一旦思いましたが、おばあさんへの仕打ちを思い出して、計画を実行しようと思いました。
「さぁ日が暗くならないうちに帰ろう。」
 ウサギとタヌキが一緒に芝を背負って帰っている途中、ウサギは火打ち石でカチカチと打ちました。
 これからいよいよタヌキに火をつけるのです。
 ウサギは温厚な優しいウサギだったため、こんなひどいことには慣れていません。
 火を点けようとする手がどうしても汗で滑ります。
 カチカチ、カチカチ。
「何の音だろう。」
 タヌキは聞きました。
「ここはカチカチ山と言うんだ。カチカチという音がするからカチカチ山と言うんだよ。」
「そうなんだ、知らなかったな。」
 タヌキは黙々と歩いていました。そしてやっとウサギは火を点けることが出来ました。
 タヌキの背中に火を点けると、勢いよく燃え始めました。
「ウサギさん、ボウボウと言っているね。この音は一体なんだろう。」
「この山はボウボウ山さ。だからボウボウと音を立てるんだよ。」
 そのうちにタヌキの背負った芝は大きく燃え始めました。
「熱い。熱い。助けて、助けてくれ。」
 タヌキは背中に大やけどを負いました。
 次の日、ウサギはとうがらしを練って作った塗り薬を持って、タヌキのところに行きました。
「タヌキさん、火傷の薬を持ってきたよ。」
「わざわざ薬とはありがたい。カチカチ山ではひどい目にあった。ウサギさん、背中が痛くてたまらないんだ。その薬を塗ってくれないか。」
「いいよ。背中を出しておくれ。」
 たぬきの背中は真っ赤にただれていました。

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