小説

『放課後ファイトクラブ』平大典(『力太郎』)

 放課後ファイトクラブ。
 僕が高校生二年生の時に流行っていた格闘技まがいの『遊び』だ。
『放課後ファイトクラブ』のルールは簡単だった。形式は一対一。服装は上半身裸。時間は三分。パンチ若しくは蹴りのみで、寝技はなし。勝敗は、降参もしくは周りの奴らの挙手による判定。
 放課後の暇つぶしだから、なんでも良かったと思う。世代が違えば、麻雀、アンパン、テレビゲーム、フットサル、スマホアプリが、流行していたはずだ。ただ、僕の高校時代は、総合格闘技の全盛期だった。年末には、各テレビ局が争うようにプロレスやボクシングなどの格闘技番組を放映していて、僕も熱中していた。
 父親もプロレス全盛期を知る人間で、格闘技は好物だったので、親子で観られる番組が紅白歌合戦以外にもでき、顔を顰めたのは母親くらいのものだった。
 学校でも、最初は番組の感想を述べる程度だったが、この年代の少年はすぐに増長する。
 誰が強いか、拳で決める。やるならガチンコ。ルールを守って戦えばいい。
 そのシンプルなメッセージに心を打たれた。
 最初はただの悪ふざけだったかもしれない。
 軽音部の連中が名付けたこの『遊び』は、伝染病のように運動部や文化系、帰宅部を問わず流行し、各部の腕利きたちが我こそは参加してきた。奇しくも、男たちが地下組織に入会して殴り合う洋画も流行っていた時期だったので、更に扇動されたのだと思う。
 腕っ節に自信のある奴らは、普段表には出さないが、心の底では俺が一番強いと自負していたらしい。とはいうものの、理由もなく殴り合うまではできなかった。
『放課後ファイトクラブ』はそういう輩の受け皿になった。相手に怪我をさせるとかの喧嘩はしたくないが、自分の肉体が有する暴力を試したかったのだ。
 ただしだ。高校生特有の特殊なルールもある。教員へこんな蛮行が露見するわけにもいけない。
 顔だけは殴らない。
 これが特殊な鉄則だった。
 非道徳的であるし、危険なゲームである。自分の子どもが将来こんな遊びをしていたら、泡を吹くかもしれない。
 そんなことを認識していても、盛り上がる高校生諸氏は止められない。
 加えて、格闘技の隆盛に合わせて、力道山や猪木、グレイシー、タイソンと、スターが生み出されるのが常だ。
『放課後ファイトクラブ』も例外ではない。
 僕らの学年にも、最強を誇る無敗の男がいた。
 それが斉藤太郎という僕の友人だった。

 
「翔太氏。今日も暑い」

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