二人は幼い頃はずっと一緒だった。
いや、どっちかっていうと、私がユキちゃんの後ろを離れなかったんだ。
私はユキちゃんが世界で一番大好き。ママとパパ、まだ子犬だったタローよりも、ユキちゃんが好き。
ユキちゃんはとっても可愛くて優しくてなんでもできて、皆の憧れだった。
私は、そんなユキちゃんの一番の友達であることが何よりも誇りだったんだ。それは、アイデンティティーであったと言っても過言ではないと思う。
そんな金魚の糞な私を気にくわない女の子なんて腐る程いるのも当たり前だったのかもしれない。
小学生のある時、私はいじめの対象となった。
『あんたなんて、ただユキちゃんとお家が近かったってだけで、ゼンッゼン!白雪ちゃんのお友達としてふさわしくなんてないんだから』
嫉妬心丸出しのその言葉は、私の唯一のアイデンティティーを粉々に砕いてくれた。それから私はあれほどユキちゃんにくっついていたのに、パタリとそれをやめた。周りからの視線はもちろん、ユキちゃんにどう思われているのか、怖くなってしまった。
そんな私をユキちゃんはすごく心配してくれて、事あるごとに私をいろいろと誘ってくれたけれど、私はそれを適当に嘘をついて断ってしまった。何度も断り続けているうちに、ユキちゃんも次第に諦めたのか(呆れられたのか)、自分から私に声をかけることはなくなった。
きっと、あの時ユキちゃんをすごく傷つけたんだ。
だから、これは私への罰なんだと思う。そうとしか思えない。
私は、涙で滲み過ぎて全く見えなくなった下を覗き込む。
怖くて仕方ないけど、私はこうすべきだと思うから、最後の勇気をふりしぼる。
力一杯目をぎゅうっと閉じて、上を向く。
ごめんね、ユキちゃん。許してなんてくれないだろうけど、今度また会うことができたら、謝らせてほしいな。
そう、最後に思い、一歩足を踏み出した。
今日も麗しの花に玉砕した男が後をたたなかった。
竹桐白雪。校内一の美少女で誰からも好かれる優しい少女。文武両道で教師からの覚えもよく正しく優等生。
闇よりも深い黒檀の髪に、その名に相応わしい白く美しい肌、そしてまるで林檎のように瑞々しい赤い唇。
一目見ただけで思わずため息が漏れてしまうほどのその美貌は、芸術作品のようだとさえ褒め称える人間もいた。
そんな彼女をモノにしようと果敢に挑む男が無惨にも破れるその姿は、最早校内名物とすら化している。
高嶺の花たる彼女を落とせた男は未だかつていない。
それもそのはず、彼女は交際を申し込んできた相手に必ず条件を提示する。それも、到底実現できそうにない条件を。