小説

『桃井太郎と女たち』常田あさこ(『桃太郎』)

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「それでは」
「いただきましょうか」
「お疲れ様でーす」
 手際よく選んだワインを掲げて、彼女たちは笑顔を見せた。
 東京駅近くのイタリアン。同世代の男性とは決して来ることがないであろう、オシャレな雰囲気の店内は、不思議と居心地がいい。
「桃井さん、何時の新幹線ですか?」
 彼女らしい気遣いを見せてきたのは、水戸里香(ミトリカ)さん。都内の私立女子大を卒業して入社。今は経理を担当している。
「8時半くらい」
「3時間くらいかかるんちゃいます? 明日、休まなかったんですか?」
 片手でスマホを操作しながら顔をしかめたのは、岩佐留美(イワサルミ)さん。日本の最高学府を卒業した才女は、マーケティングを担当している。
「今夜はこちらに泊まって、朝一番の新幹線にしたらどうですか?」
 ゆったりとした口調は、空井布絵(ウツイヌノエ)さん。旧帝大を卒業し、今は営業を担当している。
「始発でも、あっちに着くのは9時過ぎるんだよ」
「いうても東京駅は目の前やし」
「まだ7時前ですし」
「楽しみましょうか!」
 数年ぶりに会う彼女たちは相変わらずで、思わず笑みがこぼれた。

 本社勤務の彼女たちと私が知り合ったのは、数年前の管理職研修。
 半月にわたって行われた研修の初日、最初の講義は「社内の各部門について知る」というものだった。入社以来ずっと技術畑を歩いてきた私にとっては、知らないことばかりで、非常におもしろかった。そして、その講義を担当していたのが、彼女たちを含む入社10年以内の若手社員たちだった。
 サッサと帰り支度をする参加者たちを横目に、私は資料を再確認していた。元来、凝り性というか職人気質だと自認している私は、わからないことがあると気持ちが悪い。自力では疑問が解決できないと判断して、マーケティングの担当者に声をかけた。

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