小説

『桃井太郎と女たち』常田あさこ(『桃太郎』)

「抹茶たててくれはるんやろ?」
「早く行きましょうよ」
 やはり女性は甘いものが好きなのだな、と思いながら、少し離れて後を追う。かかとの高い靴なのに、彼女たちの歩くペースは非常に速い。
「時間がゆったり流れてますね」
「あー、癒されるー」
「ここに住みたい……」
 彼女たちが東京から背負ってきてしまった「忙しい!」という空気が、肩の力と一緒に抜けていくのが見えた気がした。こうやって人は命の洗濯をしたり、背負いすぎた荷物を下ろしたりするのかもしれない。
 はしゃいでいる彼女たちは若々しく無邪気で、学生のように見えた。女性が3人も集まると文字通り姦しい。けれど、彼女たちの近くは不思議と居心地がよい。

「では、ここで」
「ありがとうございました」
「また明日、お迎えにあがります」
「明日も、よろしくお願いします」
 路面電車に乗りたいという彼女たちとは、城下駅の近くで別れた。
「これ、ご家族に……」
「気を遣わせて、すみません」
 渡された東京みやげには、私の家族に対する「週末に借りてすみません」という、おわびの気持ちが込められている。
 しゃれた包装紙には全く見覚えがない。きっと女性たちの間で流行している新商品だとか、有名パティシエが作った高級スイーツだとか、そういった類のものだろう。
 帰ったらすぐ妻に渡そう。「あなたが出かけるなら、私も友達に会ってくるわ!」と、うれしそうにしていた妻には、「おわび」は必要ないだろうが。

 翌日は、普段の日曜日よりずいぶん早起きをした。今日は電車で倉敷に行くことになっている。駅前のホテルに宿泊している彼女たちとは、ロビーで待ち合わせだ。

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