小説

『桃井太郎と女たち』常田あさこ(『桃太郎』)

 よく晴れた土曜日。彼女たちがやってきた。悲しいかな「来訪」や「登場」より「襲来」という表現が似合ってしまうということに、彼女たち自身は気付いているだろうか。
「お待ちしておりました」
「せっかくの三連休に、すみません」
「こっちは、桜が見ごろですね」
「東京は、まだ八分咲きです」
 昔話とは逆に、おともするのは桃太郎こと私の方だ。おもてなし用プランを考えていた私をよそに、彼女たちは自分たちでプランを作成した。あらかじめ告げられた行程どおり彼女たちをアテンドするのが私に与えられた仕事。
「まずは、岡山城ですね」
 ピカピカに磨き上げた愛車も、彼女たちを見て背筋を伸ばしたように見えた。
「そういえば、お昼は?」
「要りません」
「え?」
「桃井さん、おなかすいてます?」
「いえ、朝が遅かったので」
「じゃあ、行きましょうか」
「女子は、甘いものさえあれば生きていけるんですよ」
「あぁ、ウチ、お酒ないとあかんわ」
 ウキウキと天守閣に向かった彼女たちは、茶屋のパフェが目的だったらしい。スマホで撮影した画像を、SNSに即座にアップする様子を横目に、ぜんざいを口に入れた。品のいい甘さが、ちょうどいい。
「なぁ、あれやんなぁ?」
「どうします?」
「やるしかないでしょう!」
 うなずきあって、彼女たちは順番にお殿様になった。どうして誰もお姫様にならないのか、聞いてはいけない気がして、撮影係に専念した。
 月見橋を渡って、後楽園へ向かう。
「ここでは、きびだんご、ですよね?」

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