「どうした、四朗。わらわを探しておったのじゃろうて」
呆気に取られている四朗に、岩のようなカエルのような、何かよく分からないものが話しかけてくる。そして、なぜか四朗の名前を知っているのだ。
神というよりは、化け物といった方が近いかもしれない・・・そんなふうに感じた瞬間、その岩は明らかに機嫌を損ねた。
「貴様、わらわを化け物だと思ったな。みくびるな。わらわは人の子の心などすべて見えておる。お前がなぜここに来たのかも、何を願っているのかも全て知っておる。」
山の神だ。
四朗は咄嗟に感じた。想像していた神の姿からは程遠かったが、人知を超えるからこそ神なのであろう。そして、何よりも今は時間がなかった。
雨が降らないこと、それが山神の祟りだとして自分の妹が顔にあざがあるという理由で生贄にされそうなこと、それ山の神の前で話をした。
山の神が何を考えているのかは表情からはまるで読み取れない。
しかし、四朗にとっては今目の前にいる存在が山の神だと信じて助けを乞う以外にないのだ。
「お前の望みは、雨を降らせ、今妹を救うということで良いのか?」
鬼灯のような赤い目が四朗とあった。そうです、と答えると山の神は大きな地響きのような、ため息をついた。
「それなら断る。また同じことが起こるぞ。お前も分かっているだろう。人の心が変わらぬ限り、同じことがまた起こる。日照りや飢饉、理由はなんでも良い。自分が助かるために、また同じことが起こるぞ。お前の妹でなくても、他の娘がまた犠牲になる。わらわは何百年もその様子を見てきたのだ。醜いものを差し出せと誰が言った。醜いものがなくなって喜ぶのは人間ではないのか。そもそも、雨は竜神の役割よ。わらわに雨乞いで人間の醜い娘を差し出されたところで何にもならぬわ」
山の神では雨を降らせることはできない。
その一言で四朗は呆然とした。では一体どうしたらヒナを救えるのか?
一方で、山の神が言うことはどこかで分かっていた。
もし仮に山の神が雨を降らせてくれたとしても、今度はまた別の理由で何かに付けて生贄を出さなければならない場面が出てくるかもしれない。
そのたびに、ヒナでなくても他の娘が、その家族が四朗と同じ思いをするのだ。
「変えるべきは人の行いや心よ。だが、人間はいつも同じ過ちを犯す。時代が変わっても、世代が変わっても、やっていることはいつも同じ。だが、四朗。こうやって村の掟に抗い、わらわの元へやってきたことは褒めてやるぞよ。たまにこういう人間も出てくる。ただ、決まって長生きはできないがな。」
まるで目を細めるような仕草をする山の神に、四朗は願った。
ヒナを救いたい、ということを。
「ヒナを救ったところでどうする?あれは顔に大きなあざがある。その時点で大抵の男はもちろん、親族というものも毛嫌いするだろう。人は見た目に騙される。お前もわらわの姿をみて、最初は化け物だと思ったではないか。醜いものは生きていても辛いだけよ。だからこそ、わらわがそんな娘たちを引き受けてやっているのだ。美しくなければならぬのは、神も人も同じよ。」