小説

『ナビの恩返し』戎屋東(『鶴の恩返し』(全国))

 翌週、僕たちは、遅めの朝食を取ってドライブに出かけた。エンジンがかかったところで、紬がナビのスイッチを押した。
「あれ『行きたいところ』が出ないんだけど」
「やっぱり」
「やっぱりって、どう言うこと」
「ほら、先週変な所に案内しただろう。壊れたんだよ」
「えー、じゃ修理するの」
「無理だと思う。なんせ古いから」
「じゃー、どうするの」
「新しいナビに変えようか」
「やめようよ、車の位置が分かるだけでも良いよ。それに、私はこのナビに案内されると幸せな気分になるんだよ」
「本当に、紬が良ければ僕は構わないけど」
 本当のところ、僕は、このナビを手放すことなんて全然考えていなかった。

 その晩、二人でテレビを見ていると、ドラマの合間に宝くじのC Mが流れた。
「宝くじ当たる人なんかいるのかな。そう言えば、あの時宝くじ買ったよな。どうだった」
「見てないけど、当たるはず無いよ」
「それはそうか」
「確か、その辺にしまったような」
 宝くじは、メッセージボードにピンで留めてあった。
「翔くん、ついでに当選番号調べて」
「うん、わかった」

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