小説

『ナビの恩返し』戎屋東(『鶴の恩返し』(全国))

 そう言って、早速作業に取り掛かった。随分時間はかかったが、何とか取り付けてもらうことができた。
『先ずは、取扱説明書を読まなくちゃ』
 急いでマンションに戻り、空箱から取扱説明書を取り出そうとしたところで気がついた。そういえば、それらしい物をみた記憶がなかった。
『まー、何とかなるか』
 ちょうどその時、紬が出張から戻ってきた。
「何、その箱」
「古いカーナビなんだけど、資源ごみと一緒に捨ててあったんだ」
「え、ごみ拾ってきたの」
「いや、ごみじゃないよ。ちゃんと動くんだ。もう車に取り付けてみたんだ」
「そうなの、うちのゴミ車に」
「ゴミ車って、コンテッサは名車だよ。紬だって気に入っていたじゃないか」
 僕は溜息を吐くことしかできなかった。
「そうだ、ゴミ車でだけど、今度の休み、久しぶりにドライブに行こうか」
「今度の休みって、翔ちゃん、毎日休みでしょ」
「まー、今はそうだけど・・・」

 翌日、僕は愛車の中にいた。どうやら、ナビと言っても車の位置が分かるだけで、道案内をしてくれる訳ではなさそうだった。
 それに、よく見ると、電源以外に位置合わせに使うらしいスティックと『設定』『ホーム』ボタンがあった。

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